オンラインゲームにおける煽り行為についての備忘録
2024年6月末に行われたスプラトゥーン3の個人大会がTwitter(現X)上で炎上している。
スプラトゥーンシリーズには、一定の条件を満たすと使用可能な「スペシャルウェポン」という強力な武器が存在する。ある試合において、勝者チーム側がスペシャルウェポン「ウルトラショット」の使用を、勝敗決定がほぼ明らかな場面以降に継続した…と思しき場面があった。
敗者チーム側がその一連の行為を「煽り」として受け取り、運営に申告したことが事の発端となる。
リアルにおいての煽り行為といえば、煽り運転が代表的だろうか。
車間距離を詰めて周囲の車を威嚇、ライトを連続で点灯させて挑発する。心理的に過度なストレスをかけ、相手に対して心理的優位な立場を得ようとする行為が該当するだろう。
煽り運転が物理的な被害をもたらすことは稀で、それゆえに被害を受けたという実証をすることは大変に難しい。最近は車載カメラも増えたこともあって必ずしもそうは言わないが、それでも相手がしらを切って言い逃れして難を逃れる、というケースは往々にして存在するだろう。
個人的な感覚でいえば、オンライン上の「煽り」の証明はさらに難しいと考える。
スプラトゥーンで「煽り」として認められやすい「煽りイカ」は、ヒト状態とイカ状態を高速で切り替える行為を指す。この切り替え行為のゲーム上での意味は全くないといってもよく、無意味な行動の繰り返しで過度なアピールを行っている、として通報対象になりえたりもする。これは他の対戦ゲームで「屈伸」と呼ばれる行為とほぼ同じものとして扱われ、意図的に操作しなければ起こり得ない動作ということもあってマナーの悪い行為として一定の認知を得ている。
しかし、今回話題になっているスペシャルウェポン「ウルトラショット」の使用は、一概に「煽り」だと認定しづらい側面がまぁまぁある。
「ウルトラショット」は非常に強力な弾を合計3発発射するという武器で、今回話題となっている試合では、この2発目の弾が撃ち込まれた段階で勝負が決しているにも関わらず3発目が発射されたことを「煽り」として敗者チーム側が運営に申告している。
勝者チーム側の言い分としては、3発目の弾はラグ飛び(ネットワークの同期の問題で生じる敵チームの突然の出現)対策として行われたと弁明しており、この理由付けについては個人的には十分理解できるところがある。ラグ飛び自体は必ずしも発生するものではないが、自チームの勝利を確実にするために予備的に行ったという理由自体におかしいところは感じない。
この理由付けが後付けでなされたもの、という可能性もないわけではないが、「習慣的に3発全てを撃ち切っただけではないか」「(スペシャルウェポンの制限時間内に)3発目を撃たない方が利敵行為」「祝砲として最後の弾を撃ちだしただけ」等の、一連の行為は「煽り」には至らないだろうとする意見がネット上では散見される。
オンライン上の「煽り」の証明が難しいと前述したが、難しくあるべき、というの自分の正確な意見である。なぜかというと、オンライン上の「煽り」はリアルのそれ以上に、受け手側が相手側の取った行動の一切を「煽り」とみなすことが容易であるためである。
幅寄せ等の具体的な危険性を伴って行われる煽り運転と異なり、ネット上の「煽り」には基本的に脅威性はない。意図的に「煽り」をやる側が悪いのは前提条件として、無意味な行動を連続して行う、というのは裏を返せばゲームの仕様上では全く問題がないものであり、その行為が「煽り」であるという共通認識のもとでようやく成立する。
つまるところ、受け手側の認知だけを重視してしまうと、「煽り」をしたという冤罪は無限に作れてしまう側面があるのだ。
今回のケースでは、「勝敗決定後にウルトラショットを撃つことは過度な挑発行為である」という知識を受け手側が持っていた。確かに受け手側からすれば屈辱的な行為としてそれは捉えられたのかもしれないが、相手側からすれば、自チームの勝利を確実にするために最後の1発を撃っただけにすぎず、あるいは習慣的に最後の弾を撃ちだしただけだったかもしれない。この状況で受け手側の意見を尊重しすぎると、言い方に難はあるものの「言ったもの勝ち」となってしまう。
それゆえに、オンライン上の「煽り」の証明は慎重に行わなければならない。あまつさえ、優勝取り消し等の罰則が絡むのなら、なおのことである。