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【感想】コンフリクトガール-歩んできた過去と歩んでいく未来を、歩んでいきたい君と

コンフリクトガール+ Birthday againタイトル画面

 サークル「ミラーイメージ」さんが販売中のアドベンチャーゲーム「コンフリクトガール」をクリアしました。
 配信開始日は2022年12月24日。2020年に販売されたゲーム本編に後日談やギャラリーモードを足した「コンフリクトガール+ Birthday again」を遊んだ形となります。通常版の方が500円ほど安くはありますが、本編だけだと若干物足りないところがあるため、新規に遊び始めるのならボリュームアップ版である「コンフリクトガール+ Birthday again」の方をお勧めします。

 プレイ時間は本編5時間+後日談3時間前後で計8時間ほど。ゲーム中の選択肢によってヒロインの好感度等が変化し、その結果に応じて計11種類のエンディング(トゥルー1、ノーマル1、バッドエンディング9)を見ることが可能です。ゲーム中に掲示される情報等を加味すれば、トゥルーに到達することは易しく、むしろいくつかのバッドエンディングへの到達の方が難しいぐらいです。

 攻略に関わるフロートチャートがゲーム内のおまけフォルダに収録されており、バッドエンディングにしか存在しないCGを収集したいという場合には力を借りるといいいでしょう。トゥルーエンディング後の情報がパスワードとして求められるため、最初から参照できるわけではありません。しかしながら普通のプレイではなかなか気付きにくいところもあり、自力攻略で全ての選択肢を網羅するのにだいぶ時間もかかるため、大人しくフロートチャートを見ながらエンディングリストを埋めていった方がいいと思います。
 

――梅雨の気配に空気が湿る、6月のある日。
試験に向けて勉強を教えてもらおうと、あの子に声をかけたのが始まり。
いつも優しい彼女の笑顔は、少しだけ、もういないお母さんに似ていた――

高校生活最初の夏休みを控えた6月。
『相川のぞみ』は期末考査に向けて、隣に住むクラスメイト、
『篠塚皐月』に勉強を教えてもらうことになる。
いつも穏やかな笑みを湛えている皐月。
しかし親しくなるにつれ、その笑顔の綻びに気づく。
優しさで丁寧に蓋をして、何かをずっと耐えているような……。
どこか亡き母に似た少女の見せる儚さに、のぞみは強く惹かれていく。

――雨が降っている。
  あの日と同じように、朝からずっと雨が降っている――

コンフリクトガール あらすじ


 以上があらすじとなります。
 高校1年生の相川のぞみと篠塚皐月の二人を中心に描かれる、百合サイコサスペンスアドベンチャーです。ゲーム内容としては暴力表現と若干の性的な描写も含まれるので、その辺りの耐性が全くないという人は注意した方がいいかもしれません。R-12くらいの耐性値は必要かも?といった具合です。
 以下、微ネタバレ感想⇒ネタバレ感想といった感じで続きます。
 気になった人はDLsiteやboothの方で配信しているので是非遊んでみて下さい。


コンフリクトガール+ Birthday again(DLsite)





表情豊かな主人公と共に送る日常(微ネタバレ)

主人公・相川のぞみとヒロイン・篠塚皐月。物語の視点はのぞみを中心として語られる

 家が隣同士のクラスメイトでありながら、特に関わることもなく過ごしてきた相川のぞみと篠塚皐月。
 その程度の関係性は、のぞみが皐月に期末考査のための勉強会をお願いするところから少しずつ変わり始める。皐月に幼い頃に亡くした母親の面影を見るのぞみは、二人だけの勉強会、友人とのキャンプ、花火大会を経て、次第に彼女のことに惹かれていくことに気付き始める――

 …というのが、序盤の大まかな流れである。
 物語は相川のぞみの視点を中心に語られるため、基本的にはそれを追体験していく形となる。


 のぞみは「わりと誰にでも体当たりでコミュニケーションを図るタイプだ」と本人が言うだけあって、その立ち振る舞いはだいぶ感情が乗っていてアクティブなものである。繊細なところもあるので気負いしてたじろぐところもあるものの、友人との関わりではコロコロと表情を変えている様が目に浮かぶような描写がなされている。ムードメーカーな立ち位置で、つつうららに等身大の反応をしてくれるのがとても魅力的に映る。

相川のぞみの友人である高遠文恵と、その彼氏である板垣勤

 そんなのぞみの友人である高遠文恵、その彼氏である板垣勤も物語を彩る上で欠かせないキャラクターである。設定的な意味合いで、というところももちろんあるのだが、のぞみを含めたこの3人のやりとりが非常にコメディチックで面白い。
 板垣勤はやや特殊なバックボーンを持つ。初登場となるシーンではそれゆえにややインパクトがあるのだが、読み進めていけば彼の人ととなりが自然と受け入れられ、のぞみと共に文恵をからかうシーンを笑みなしには見れなくなるだろう。性別こそ違うものの、主人公の精神的悪友ポジションといってもいいかもしれない。個人的にもだいぶお気に入りのキャラである。

主人公の恩師・松本先生。彼の助言はのぞみだけではなく、皐月をも救うことになる

 魅力的な登場人物は多いが、一番のお気に入りでいえば迷いなく松本先生と個人的には答える。
 登場人物の中では40歳と最年長であり、多くの生徒を見守ってきたであろう彼の言葉は、のぞみが皐月と関わっていく上で大きな影響を与えていく。
 作中で語られる人物描写としては決して多くはないものの、教員人生を送る上で色々な出来事をこなしてきたであろうことは想像に難くなく、「コンフリクトガール」全体で見てもキャラクターとしての完成度は郡を抜いているように感じられた。
 もし今後世界観を共通とするような作品が出されるのであれば、是非ともゲスト出演してもらいたい。そう願うくらいには気に入った人物なので、この記事を見ていて彼のことが気になった人物は是非ゲーム本編をプレイしてみて欲しい。トゥルーエンディングに見ることができるキャラクター設定の彼の欄は必見である。



 

 
 

選択肢が映し出す作品テーマ(ネタバレ)

自分の想いと衝動に板挟みになる皐月。のぞみが彼女の傍らに立てるかはプレイヤーに委ねられる

 ゲームにおける選択肢は、登場人物が辿るべき運命の行き先を示す方位磁針の役割を担う。
 「コンフリクトガール」におけるそれは、篠塚皐月の好感度、そして他人を頼れるかどうかというコミュニケーションの有無であり、ゲーム全体を通して描かれるテーマと重ね合わせてうまく表現されている。

 皐月に好かれるだけでは最良の未来へと到達することはできない。もちろん、のぞみが皐月の頼ることのできるような存在になること自体は必要不可欠ではある。しかし、自分の母親と最悪の形で決別してしまった彼女の闇は、たった一人で拭い去るにはあまりにも大きい。のぞみと皐月の間に十分な絆が芽生えていたとしても、それだけでは足りないことを複数のバッドエンディングの存在が指し示している。

 「コンフリクトガール」の構成の面白いところは、皐月を救うためには、主人公である相川のぞみ自身も自分の母親の死を乗り越える必要があるというところだろう。

 皐月とは経緯が違うとはいえ、のぞみも自分の母親の死にトラウマを抱えている。
 自分自身が母親の容態に気付いてさえいれば彼女を助けられたかもしれない。中学入学と同時に抱いてしまったその罪悪感は、それ以降の父親との見えざる壁となってしまっていた。この壁を取り払わなくても物語は進むものの、そこから辿り着く未来では、皐月を救うことはおろか、大切な友人二人の命を失ってしまうこととなる。皐月と板垣の決定的な確執を取り除くことのできる一匹の存在について、のぞみは自分自身の両親ときちんと向き合う余裕があって初めて思いを巡らせることができるのだ。

 そして、皐月を幸せにするためにはそれだけでは足りないのである。
 自分一人の力が及ばないときに他人の力をきちんと頼る。それをのぞみが行動として示さなければ、皐月は本当の幸せを掴み取ることは決して叶わない。
 皐月のことを心配しているのはのぞみだけではない。皐月の昔からの友人に、のぞみを通じて知り合った友人たち、生徒を心配する学校の先生。皐月を心配する全員を巻き込んでいかなければ、その命自体は助けられても本当の意味での彼女救うことはできないのである。


 上記のように、選択肢によって皐月の好感度が変わるだけではなく、他者を頼らなければ苦しんでいる人を救うことは出来ないというフラグ管理は実に美しくデザインされたものであるように感じた。
 製作者が逆算的に構築したのか、それとも物語を作っていく上で自然とこの構造を作り出したのか。それは定かではないものの、問題を一人で抱え込まずに他者を信用して頼るという、当たり前ではあるものの難しくある要素を「コンフリクトガール」として最後まで描き切ったことは見事としか言いようがない。


 若干の重箱の隅つつきといえば、前述した父親の確執解消イベントでポン太のことを思い出すようになるところであろうか。父親と連想してポン太を思い出す、などの理由付けがあればより良かったように思える。


葛藤し続けた少女が辿り着いた居場所(ネタバレ)

思いやりという名のボタンを互いに掛け違ってしまう前の母と娘

 母親に辛い顔をしてほしくなかった。
 幼い娘のそんな想いは、ある出来事をきっかけに二人の関係性すら決定的に変えてしまう。
 自分が叱られるような存在になることで彼女を母親という役割から解き放てる。それが救いだと信じて、その果てに待っていたのは壊れ果てた母親の永遠の逃避。
 逃げだした母親から逃げ出して、娘は彼女を憎むことで壊れかけの自分を繋ぎとめた。
 葛藤する心を必死に抑えて。
 ――6月10日。忘れることのできないあの日に、彼女と関わりあうまでは。


 サイコサスペンスアドベンチャーと銘打たれていることもあって、ある程度のものは覚悟していたつもりである。しかし、物語終盤で提示される皐月の秘密はその覚悟を大きく上回るものであった。
 何故皐月がここまでの歪んだ精神を形成してしまったのか。
 その理由づけとしては十分に説得力のあるもので、ひどく納得してしまって、皐月が歩んできたであろう人生に想いを馳せて少しだけ涙を滲ませた。


 皐月がまどかに対して抱く感情は、愛情として括るなら紛れもなく本物である。
 しかし、彼女のそれは嗜虐的な暴力性や性嗜好に端を発したもの。世間的に愛情と呼ばれるものとはあまりにかけ離れている。
 愛する相手の命をも奪い兼ねないその衝動は、社会においておおよそ許容されるものではない。

 皐月の最も辛いところは、逸脱した自身の性癖についての自覚と、一般人がその性癖について感じる嫌悪感をきちんと認識し、相応以上の罪悪感を抱えて込んでしまっているところだろう。
 他人の苦痛を渇望してこそいるが、他人に暴力を振るうことに忌避感を覚えないわけではない。倫理観こそ歪んではいるものの、道徳心がないわけではないのだ。己の性癖が他人に知られてはいけない類のものであるとしっかりと認識し、事実、他者へ相談したりその苦痛を吐露したりはしていなかった。

 母親へ甘える手段として一時的に肯定していたことも、皐月の内面性を歪める一因となったのだろう。母親の死亡によって肯定的な認知は強烈に反転し、一番最初に抱いていたはずの母親を救いたいという想いすら忘却してしまう結果となった。自分が他者と決定的に異なっているという自己認知は決定的なものとなり、以来それを改めようとする機会は失われてしまう。
 他人を愛することは他人を苦しめること。彼女はそう考え続けることになる。

 のぞみと出会い、彼女に己自身を受け入れてもらうまでは。

皐月が抱え続けてきたものの片鱗を垣間見るのぞみ

 のぞみとの出会いを経て、皐月は自分の母親に抱いていた一番最初の気持ちを思い出す。
 それは憎悪ではなく、己の異常性を向けてまで救いたかったという、純粋な愛情であったことを。
 他人を傷つけたいという性嗜好ではなく、他人を思いやるという愛情が彼女の中にあったことを。

 暴力を伴った愛情に未来があるかといえば、答えはノーであろう。
 他人に苦痛を強いるしかない関わり合い方は、身体的にも精神的にもいずれは破滅する未来が訪れるだけだ。たとえ当事者同士で受け入れられようとも、生命的な危機が隣り合う以上はいずれは社会的な排斥を受けることとなる。
 根底にある感情が愛だとしても、それに暴力を伴わせてはいけないのだ。

 だがそれと同時に、その暴力を振るうに至った感情の礎が愛情だということも忘れてはいけない。
 その発露方法に暴力が選択されることが問題なのであって、他者を好きになるという気持ち自体に問題などないのだから。

 他人に暴力を振るうことで興奮を覚えるという性嗜好は、確かに皐月の中にあるのだろう。
 しかし、彼女の中にあるのはそれだけではない。
 好きな人を幸せにしたいという想いも、きちんと存在している。
 暴力を振るわずとも誰かを愛する方法を取ることさえできるのならば、その感情に何ら問題はない。
 母親の死から短くない年月を経て、皐月はその真実にようやく向き合うことができたのだ。


 皐月が他人を傷つけてしまったという過去を変えることはできない。
 それについては事実として覆しようがなく、その過去を原因としたトラブルが起こるだって十分にありえることである。皐月の性格形成にはこの問題が深く関わっており、後日談の話を見ても簡単に拭い去れないことが見て取れる。

 しかし、皐月がのぞみと共に歩んでいこうと願う限り、彼女が道を違え続けることはきっとない。

 惹かれた最初の理由こそ、彼女の特異な性嗜好に根差したものかもしれない。
 だが、のぞみから向けられるのと同じように暖かなものが、今の皐月の中には確実に存在している。
 皐月がその手を握りしめる限り、青い空が晴れ渡るような未来へと共に歩んでいけるだろう。
 遠い道のりの果てに辿り着いたその場所から、きっとこれからを歩んでいける。

トゥルー後のコンフリクトガール+ Birthday againタイトル画面



 後日談では、本編では見ることのできない皐月の表情万化の様を楽しむことができる。
 この感想記事をここまで見ている人は既プレイ済みの方が多いとは思うが、万が一後日談を未プレイという方には是非ともプレイすることをお勧めしたい。

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