サークル『オイダーPROJECT!』のホームページ

最新情報NEWS

機動戦士ガンダム -水星の魔女- 第1シーズン感想~進んで手に入れた祝福と呪い~

 前文

 2022年9月4日に配信された前日譚「PROLOGUE」から3ヶ月、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の本編第1シーズン最終話が先日放映された。
 事前情報では「学園ガンダム」とも揶揄されていた本作。放映スタート前の段階ではどちらかというと小馬鹿にさされた色合いが強かったと記憶している。その下馬評をちゃぶ台が如く見事にひっくり返した手腕は、実に見事なものであった。
 SNS上では数多のファンアートや感想の言葉が掲載され、それらを発信しているのが今までガンダムシリーズに興味を持てなかったような人たちという。
 第2シーズン放映まで3ヶ月。後番組である『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』TVエディションを始めとして、ガンダムシリーズの敷居を跨いだ新規視聴者は色々な作品に触れていくことだろう。
 この記事を書いている自分自身も、なんだかんだ見ていなかった作品のいくつかに触れていく所存である。それくらいに、水星の魔女は新旧のファンを問わずにガンダム熱を高めてくれた。

 
 以下、水星の魔女第1シーズンについての感想を備忘録がてらまとめておきたいと思う。
 本編のネタバレが多く含まれる感想記事となるため、これから水星の魔女を見ようと考えている人は注意して欲しい。

「祝福」PVの見返りスレッタちゃんかわいい
「祝福」PVの見返りスレッタちゃんかわいいよね


シリーズファンをフックした前日譚「PROLOGUE」

 本編放送に先駆けて公開された前日譚「PROLOGUE」は、事前情報から「学園ガンダム」と揶揄されていた本作の評価を一変させる出来であった。

 医療技術GUND、それを転じて利用した軍事兵器ガンドフォーマット。その開発ラボで稼働実験を繰り返す、ガンダムの名を持つ人型兵器。
 描かれるのは開発チームの緩やかな日常と、テストパイロット家族が誕生日を祝う暖かな雰囲気。そして、評議会なる組織の武力制圧によるその突然の終幕。
 4歳の少女が操るガンダムによる無垢な戦闘と、それに戦慄する母親。自分の娘を守るためにその身を犠牲とする父親の、朦朧とした意識のままに謳われるハッピーバスデーソング。
 物語の終幕として4つ目の爆発が上がるシーンは、物語を見届けた者に言い様の知れない絶望と「希望」を感じさせた。

 一部のイベント会場上映とオンライン配信のみとなった「PROLOGUE」の視聴者数は、観測しきっていたわけではないがそこまで多いものではなかった。
 しかし、史上最年少のガンダムパイロットとなった少女・エリクトが残した「ろうそくみたいできれいだね」のネットミーム化で、その数はグッと増えたように感じられる。
 実際、自分自身もこのトレンドワードに引っ掛かって見始めたくちである。

 女性主人公。舞台は学園。あらすじ紹介で踊る作品固有の専門用語たち。
 従来のガンダム作品とはだいぶ異なる雰囲気を漂わせるオンライン会見記事を見て、批難まではいかなくとも様子見を決め込んだシリーズ視聴者。
 そんな彼らを安心にさせるにたる地獄が、「PROLOGUE」には描かれていたのである。
 この作品は確かに今までのガンダムシリーズとは異なる面もあるが、ガンダムシリーズたる部分もきちんとある。そう納得させられていた。
 本編がある程度まで進むまでストックしておこうという気持ちは消え失せ、第1話の放送をいまかいまかと心待ちにする一人に変えさせられていた。

 本編終了後に振り返ってみれば、「PROLOGUE」で描かれているような鬱々としたシーンは中盤以降になるまでなりを潜めている。
 もちろん水星の魔女特有の面白さが描かれており、特に学園ゆえの生徒間の軋轢などはガンダム作品の中でもこの作品にしか描けない面白さであった。
 しかし、ガンダム特有の殺伐とした状況を望んでいた気持ちも実際あり、作品視聴を続けていったのは「PROLOGUE」でそれが描かれていたという根拠があってゆえだったと思うところもある。

 水星の魔女が新規ファンの増加を意識しているということは、オンライン会見の時点で述べられている。
 ガンダムシリーズは歴史が長くファン数も多い一方で、「今までのガンダムシリーズを知らないと楽しめない気がする」等の理由で敷居が高く感じられているような側面もある。
 そこを払拭するための方針として水星の魔女は作品構成が成されたと考えているが、もちろんそのために従来のファンを逃してしまうのでは元も子もない。
 そんな中で従来のファン施策として企画された…のかは不明だが、少なくともその役割を果たしてくれたのが「PROLOGUE」である。
 新規ファンの盛り上がりと従来のファンの盛り上がり。両方をうまく繋げてくれたのがこの前日譚であり、このエピソードがなければ今の盛り上がりはなかったのではないかと個人的には考えている。


「PROLOGUE」と絡み合う本編、その謎解き

 好評を博した水星の魔女「PROLOGUE」のオンライン配信から1ヶ月後。
 待望されていた本編第1話のテレビ放映とオンライン配信、そして主題歌「祝福」作成のために書き下ろした小説「ゆりかごの星」が公開された。
 クセのある主人公スレッタとミオリネのキャラ描写や、敵機との破格の性能差を絵面として巧みに見せたガンダムエアリアルの戦闘シーン、結婚相手を決める決闘の存在に90年代の名作「少女革命ウテナ」を連想したりと、本編の様々な部分が視聴者を引き付けたわけだが、
 自分が最も気になったのは「PROLOGUE」と本編との繋がりについてである。

 「PROLOGUE」でガンダムルブリスに乗った4歳の少女・エリクトは、父親の犠牲をもって母親と共に武装集団の魔の手から逃げのびている。
 エリクトと顔立ちの似通った17歳の少女、本編主人公のスレッタ=マーキュリー。彼女の正体は13年後のエリクトが偽名を使った存在で、その愛機であるエアリアルはルブリスへと改修されたものである――という予想がネット上では主であり、自分自身もそう考えていた。
 しかし、いざ本編が2話、3話と進むにつれ、その推理だと違和感を覚えるような展開や情報がチラチラと見え隠れしてくる。

 本当に本編世界は「PROLOGUE」から13年後の世界で、エリクトはスレッタなのだろうか?
 ――もしスレッタがエリクトではないのだとしたら、エリクトはどこへ行ったのか?

 この疑問はもちろん自分だけにとどまらず、「PROLOGUE」を見終えた人たちが抱き始めてめいめいに考察を繰り広げるに至った。
 毎週のシナリオから断片的な情報を集め、「PROLOGUE」との謎を解こうとした人は一人二人ではない。自分自身も、己の考えた考察との答え合わせを求めて本編を追いかけていた節はある。
 オタクとして、この手の謎解きや世界設定に想いを馳せらせることはとても大好きなのだから仕方がない。

 ガンドフォーマット技術を封印した総裁デリングの思惑。
 スレッタの母親・プロスペラの暗躍とその目的。
 ガンダムエアリアルに宿る、何かの正体。

 全ての人がそうだとは言わないが、それでも一部のマニアックな層にとってこの謎解きは強力なフックになっていたはずだ。
 登場人物のセリフから「21年前の復讐」といった単語が出たものの、明らかになっていない謎は山のようにある。果たして最終的にはどのような回答が示されるのか。考察勢の一人として、第2シーズンの到来をワクワクと楽しみに待っていたい。


学園内で争う、一筋縄ではいかないキャラクターたち

 「PROLOGUE」に引っ張られる形での文を綴ってきたが、水星の魔女がここまで話題になったのは本編から登場したキャラクターたちが大変に魅力的だったからだろう。
 愛嬌と同時にはかりしれない闇を感じさせる主人公スレッタを中心に、父親に対して強い反抗心を抱きながらも彼に似るミオリネ、登場時から最終話に至るまでに様々なものを失い続けたグエル、スレッタとの決闘の結末に多くの人が声を詰まらせたエラン、その権謀術数で物語の最終的な黒幕を担いそうなスペックを持ちながらもミオリネには手を届けられなかったシャディク、スパイとしての身の上からどうにも不幸な未来しか感じさせないニカ、釘バットが似合う狂犬チュチュ、御三家の代表、地球寮の面々、ect…。
 それぞれに色々な見どころがあるが、中でも個人的に好きでネット上でも話題っていたのが1話から登場し続けたグエル=ジェタークである。


 「ベネリットグループ御三家の御曹司で! 決闘委員会の筆頭で! 現在のホルダーだ!」とグエル本人が1話で言っていたように、物語開始時点の彼は舞台となるアスティカシア高等専門学園の学生内トップの立場を持っていた。
 しかし、スレッタに負けたことでホルダーの地位を失い、さらなる敗北を刻んだことで学生寮から追い出され決闘委員会筆頭の役職を取り上げられ、しまいには父親の退学指示に逆らうことで結果的に御三家御曹司の立場も捨てることとなった。
 ヒエラルキー頂点から毎週のように転がり落ちていくという、お世辞にも幸せとはいえない運命をたどるわけだが、その動きとは裏腹に彼の人気は1話を最底辺として上がり続けることとなる。


 負け試合が続く中でも確かに光らせるパイロットとしての腕、父親の言いなりになるしかない現状に苦悶する心境、そして自分のことを認めてくれた女に無意識で告白するというギャップ。
 キャラクターとしての魅力は作中でもピカ一であり、恐ろしいほどまでに報われないその境遇に同情する声は話が進むたびに増えていった。
 これ以上はひどい目にあうことはないだろう…という甘い考えを打ち砕く形で迎えた第1シーズン最終話。仲違いしつつも大切に思っていた父親を自らの手で葬ってしまうというAパートラストは、今なお涙なしに語れない。
 さすがにここまで落ち込んだのならもう悲劇にあうことはないだろう、と思ってもそれを裏切って来るのが水星の魔女という作品ではある。しかし、それでも第2シーズンではグエルの幸せを願いたいものである。


花嫁を救ったことで手に入れた「祝福」と「呪い」

 水星の魔女は第1シーズンと第2シーズンに物語に分けるという、いわゆる分割2クール構成であることが事前に説明されていた。
 そのため、物語全ての謎がつかないことは確定していたわけではあるものの、一応の決着がつく第1シーズン最終話にてどのような物語が描かれるのかは非常に注目されていた。


 待っていたのは、地獄であった。


 ついに父親の本心の一端に触れるものの、自分を庇って瀕死とさせてしまったミオリネ。
 地球側のコールサイン使用により地球寮との関係性の終焉を予感させるニカ。
 転がり落ちる運命の果てに父殺しを成し遂げてしまったグエル。
 そして、「祝福」により血の一線を越えてしまったスレッタ。



 余談であるが、テレビ局側による報道番組の特別編成がなければこの最終話がクリスマスの日に放映されていた可能性もあるという。なんとも凄惨なクリスマスプレゼントである。


 逃げたら1つ。進めば2つ。
 それは母親からスレッタに与えられた祝福の言葉であるが、同時に呪いの言葉でもある。
 この言葉がある限り、彼女には選択しないという道は掴みとれないのだ。
 
 
 最終話でのスレッタの選択は、結果的には自身やミオリネを守ることに繋がった。
 しかし、何かを選択しなければいけないという袋小路に、誰かの思惑によって立たされているのだとしたら。
 あの場にいたプロスペラは、本当にスレッタに選択肢を与えていたのだろうか。


 そして、いずれスレッタに訪れる、得られるものが良いものとは限らず、失うものが悪いものとも限らない状況において。
 彼女は逃げるという選択肢、あるいは選択をしないという選択肢を取ることができるのだろうか。
 掴みとったとるもの全てが呪いであったとして、今の彼女がそれを選び取れるかは個人的には疑わしく思える。


 第1シーズン最終話において、スレッタは「花嫁の命」と「花嫁のトラウマ」という2つのものを手に入れた。
 それは祝福であり、簡単には拭えない呪いである。
 手に入れる前の状態には決して戻れないし、ミオリネのために更なる呪いを重ねなければならない状況も想定できる。
 選び取るもの全てが呪いとなる未来で、スレッタの祝福となるのは母親の言葉か。それとも、花婿の言葉か。
 
 
 第2シーズンにおいてこの二つのジレンマがどのように描かれるのかは、非常に気になるところである。

PAGE TOP