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【感想】ナツノカナタ--だからこそ、終わりのない夏の彼方を目指して

ナツノカナタ-タイトル画面

 

 Steamで配信中のフリーゲーム「ナツノカナタ」をクリアしました。
 配信開始日は2022年8月18日(早期アクセスは2021年8月5日)、早期アクセスverを遊んでいた方の生配信で興味をもってのプレイでした。
 本編クリアまでの総プレイ時間は9時間ほどですが、サブキャラとの交流が描かれる追加エピソードが6編(各30分前後)、レアアイテムに付与されるミニエピソードが18編(各3分前後)が存在して、実際のプレイ時間としてはこの記事を書いている段階で13時間ほど。公式Twitterの方では今後もエピソード追加をしてくれるようなお話も出ており、最終的な更新がいつになるかは分かりませんがもうちょっと伸びそうな予感がします。

■STORY
故郷の東京を離れ、北を目指して一人旅を続ける少女、ナツノ。
高校の同級生とは、東京を出るときに離れ離れになった。
両親とはどこかの駅ではぐれた。
電車が動かなくなってからは、一人で歩いて旅を続けた。
旅に行くあてはなく、帰るところはどこにもなかった。

世界は、半年前に終わりを迎えていた。
未曾有のパンデミックは、ほんのわずかな時間で、社会を崩壊させた。
感染すると、人は理性を失い、物言わぬ怪物となって人を襲う。
原因となるウイルスも細菌も、ついに明らかにならなかった。
わかっていることは何もない。
それでも目の前にあるものはただただ現実で、
町を歩いても誰にも出会わず、たった一人、旅を続けるしかない。

あなたが偶然話をしたのは、そんな世界を旅する少女だった。
亡くなった祖母の遺品整理で古いコンピュータを見つけたのが、すべてのはじまり。
祖母との思い出を探して、あなたはコンピュータのデータを開いた。
けれどコンピュータから聞こえたのは、知らない少女の声──
ナツノと名乗る少女と、どういうわけか通話が繋がっていた。

もちろん、あなたの住む世界ではパンデミックなんて起きていない。
高校生は誰もいない町なんかを放浪したりせず、夏休みを満喫している。
それでも確かに、ナツノと通話は繋がっていて。
彼女はいったいどこにいるのか。
どうして通話が繋がるのか。
わからないことだらけだったけれど、
彼女はただ「話し相手になってよ」と、そう言った。

終わってしまった世界を生きる、別の少女たちとの出会いを重ねながら、
あなたは少しずつ、真実に迫っていく──

ナツノカナタ あらすじ


 以上があらすじになります。
 コンピュータを通して少女・ナツノとパンデミック後の日本を旅をする、ローグライクなテキストアドベンチャーです。
 探索要素はあるものの、エピソードを読むためにそれら全てをスキップすることも可能。お話だけを追いたい、といった人にも優しい作りになっています。
 以下、微ネタバレ感想⇒ネタバレ感想といった感じで続きます。
 気になった人はsteamで無料配信しているので是非遊んでみて下さい。



ゲームシステムについて(ネタバレなし)

 ナツノカナタのゲーム進行はシンプルに2つ。
 ゲームのシナリオを読み進めていく「物語」パートと、シナリオ解放条件であるキーアイテム
 (必要アイテム)を集める「探索」パートである。
 2つのパートを交互に繰り返し、ナツノと共にパンデミック後の日本を旅していくのである。

ナツノカナタ「探索」パート。ナツノに文字入力で指示を送る


 「探索」パートではナツノの体力と空腹度の二つを管理する必要がある。
 体力が尽きれば即ゲームオーバー(所持品は全ロスト)、空腹度が尽きれば探索が中断されるためだ。
 「探索」パートの目的はキーアイテム(必要アイテム)の確保ではあるものの、体力と空腹度を回復させるための食料や包帯、または襲い掛かって来る感染者を撃退するための武器や防具も収集しなければならない。
 
 というわけで体力と空腹度管理に加え、所持品管理も必然的にやらなければならない。しかしながら非常にいやらしく、アイテムの所持個数に関してはだいぶ少なめの設定となっている。基本的には食料を優先となるため、必要とあらば道中で獲得した武器を捨てなければならないことも珍しくはない。一方で、武器や防具もローグライクらしく一定確率で破壊されるため、持ち帰るはずの食料をひたすら食べながら素手で敵を撃退しなければならない…というケースが十分にありえるため気は抜けない。
 
 

ナツノカナタ「物語」パート。ナツノと「あなた」の出会いによって世界の謎が明かされていく。

 「物語」パートはパンデミックや感染者、ひいてはこの世界の謎について語られていく。
 1節が5分ほどで読み終えられる文章量で成り立ち、これが1章あたり2~7節で構成される。
 キーアイテムが1節ごとに要求されることもあるが、1回の「探索」で複数個が手に入ることもあり、シナリオ解放に関してはストレスを感じることは少ない。そもそもオプションでキーアイテムの所持を無視してシナリオを読み進めることも可能だ。「探索」をスキップすることができるため、ゲーム部分が肌に合わずにシナリオだけを読み進めたいという場合はこちらを選択すればいいだろう。
 
 
 ナツノカナタで特徴的なシステムとして、「探索」パートにおける文字入力が上げられる。
 探索箇所をナツノの判断に任せることも可能だが、目的のアイテムが見つからなさそうな場所を探索しても、いたずらに空腹度を消費するだけである。このあたりの無駄をなくすため、行き先や調べる場所をプレイヤーが事前に文字入力で指定することがナツノカナタでは基本となる。
 一文字でも間違っていると認識してくれないという不便さはあるが、入力候補を自動入力してくれる機能があるため苛立つことはないだろう。 随時行動を指定するというところがゲームへの没入感を上げているように思えて、なるほどと思った設計である。


ナツノカナタ「探索」パート。探索キャラが複数いる場合、それぞれにメッセージを送れる。


 ゲーム全体のUIはだいぶさっぱりしており、余白のあるデザインがゲーム全体の雰囲気と非常にマッチしている。
 「物語」「探索」「荷物」(アイテム整理)が表示されるメイン画面は、シンプルゆえに美しい。
 「物語」パートの読み進めも違和感なく、自分は使用しなかったがAUTOモードがあるのでクリックが煩わしい人はそちらを活用してもいい。
 
 
 難点でいえば、「探索」パートのアイテムを捨てる処理に関してはめんどくささを覚えた。
 前述したようにアイテムの所持数はだいぶシビアで、「探索」中に幾度となく捨てるアイテムを指示しなければならない。
 この捨てる指示が少し厄介で、取得したばかりのアイテムであればその名前を文字入力するだけで捨ててくれるのだが、それ以前に入手したアイテムだと画面上部の「荷物」を開いてから選択しなければならない。
 続けて別のアイテムを捨てたい場合も連続しては指定できず、再び「荷物」を開く必要がある。このあたりはだいぶ億劫であった。
 ゲーム進行によってアイテム所持上限を上げるリュックが手に入るが、これも10→15になるだけで根本的な解決にはならないのがもどかしい。
 多少の億劫さもゲームの味とはいえるが、このあたりの作業的な手間はなんとか改善してもらえればと願う。

 以上、システム的なレビューで下から感想になります。




寂しさを心に抱きながら生活を送る人々(微ネタバレ)

 誰かと会話したり、通話したり、メッセージを送りあったり、または生配信で配信者に対してチャットを打ち込んだり。
 時代を経るごとにその手段を進化させながら、人間はコミュニケーションを取り続けてきた生物である。
 社会的生物とも時に称される我々から、それらが完全に失せることは、よっぽどの例外を除けばないといえる。
 
 
 ナツノカナタにおいて、そのよっぽどの例外は起こってしまった。
 
 
 原因不明のパンデミックにより、今までともに過ごしていた隣人は感染者となって人を襲うようになってしまう。
 学校や会社といった社会的な場所は機能しなくなり、当然それらを包括していた村や街といった場所も廃れていく。
 郵便や電話、インターネットというインフラがどうなったかは言うまでもないだろう。
 多くの人々はコミュニケーションをはかる場所と手段を失い、大規模でのコミュニティを形成することは不可能になってしまう。
 
 
 ”寂しさ”は、そんなナツノカナタの世界における重要なテーマの一つとして語られる。

 物語の序盤で出会う女性・アカネは、この世界の人間の”寂しさ”がパンデミックを招いたのではないかと推測する。
 誰かと繋がりたいという”寂しさ”が募り、知らずのうちに発した声が宇宙人へと届き、彼らの発した何かが人体に影響を及ぼしているのではないか。
 宇宙人が人間と同じようなコミュニケーションを取るとは限らない。そして、彼らのそれが人間の体に悪影響を与えないとも言えない。
 突如として人間から別の何かへと変質してしまった感染者。その正体は、宇宙人からのコミュニケーションを受け、それに応える形で変化してしまった人間の姿ではないのか。
 そういう仮説である。
 
 
 ここで語る以上はこの仮説は外れているわけだが、このあとも”寂しさ”については幾度となくゲーム中の登場人物によって語られる。
 曰く、主人公である「わたし」と比べて、この世界の人間は寂しがりであると。
 この世界の人間は、本来の情報収集技術としてのインターネットを二の次とし、コミュニケーションの道具として扱うほどに寂しがりであると評するのである。
 
 
 こうも”寂しさ”を連呼されると違和感を覚えるかもしれないが、この感覚自体をおかしいと思う人は少ないのではないだろうか。
 

 ”寂しさ”、ひいては他者との繋がりを一番感じていたのがいつかというと、自分の場合は中学生の頃だったように思える。
 既にそのあたりの感情に折り合いがついて久しいが、当時の自分はよく個人サイトのチャットルームに入り浸っていた。
 周囲には少なかったゲームやアニメの話を熱中してできるその場は、当時の自分にとって一番充実感を覚えられる場所であった。
 趣味を同じくするネット上の友人らと、親に怒られるぐらい夜遅くまで話を重ねていた日々。
 見方は色々あろうが、同好の士と語らうことで寂しさを紛らわせていた、という見方もできる。
 
 
 2022年の今でいえば、その場所はTitterといったSNS上、あるいはライブ配信上でのチャット欄ということになるだろうか。
 特に思春期といえるような若い世代においては、このあたりの繋がりを得たいという感覚は強いように思える。
 
 
 私たちが当然だと思っている繋がりが断たれ、”寂しさ”が蔓延した世界。
 そこがナツノカナタの世界であり、そこを生きていく人々が”寂しさ”について見つめ直す様や抱く思いに、ぼくはどことなく懐かしさを覚える。
 
 
 ナツノカナタは、全体的な印象としていえばジュブナイルものである。
 若い世代にとっては”寂しさ”や繋がりといった生々しい感覚を、それが遠い過去と化してしまった自分のような世代にとっては昔を思い返させるような側面がある。
 これをもっと若い頃に触れられていれば、と思わずにはいられない。
 
 
 この作品であれば多少お金をとっても文句は言われないだろうに、というのが遊び終えたあとに最初に抱いた感想である。1000円ぐらいは支払わせて欲しい。
 テキスト主体のゲームで探索パートに物足りなさを覚える部分もあることにはあるが、それを差し引いてもそれくらいのお釣りはくるとは感じた。
 
 
 一方で、この作品を中学生や高校生といった10代のプレイヤーに届けるのなら、フリーゲームとしてリリースしたのは正解だったようにも思える。
 年齢を重ねた今となっては1000円ぐらいといった感覚ではあるが、大小関わらずお金を払うという行為自体に敷居の高さを感じていたのがあの頃である。
 無料だから何でも飛びつくわけではないが、それでも口コミが良ければ、その可能性は上がるだろう。

 このレビューを見ている奇特な10代や20代前半の人がいるのなら、なるべく早いうちに遊んでみることをお勧めする。
 ”寂しさ”は大人になっても確かに感じるものではあるが、それに慣れ切ってしまう事実もまた然り。
 若ければ若いほど共感できると思うので、是非にこの世界の全てを体験して欲しいと思う。
 
 その観点からいくと遊べる媒体がPCだけというのも、パソコンを所持していない家庭も少なくない現代では厳しいため、追加要素の製作がひと段落したらスマホアプリとしてリリースしてもいいのではないかなと思った次第である。



「偶然」の意味を世界に見出しながら(ネタバレ)

 

ナツノカナタ。いつまでもそこにある物語。

 世界に意味なんてなかった。
 その誕生に劇的な意味付けなんてなく、創造主の気まぐれとささいなきっかけによって作られただけの、放置され続けた箱庭でしかなかった。
 パンデミックが起こったことも、ナツノと家族とはぐれて一人旅することになったのも、「あなた」がパソコンを見つけてナツノと出会ったことも、全てが偶然。
 祖母の死をきっかけに全てが始まった、などというドラマなんてあるわけもなく。
 
 
 ――創造主に会いたいという世界の”寂しさ”が、人々の体を変質させている。
 そんな予感を登場人物たちが抱き始めてきたところを、無情にもバッサリ切っていくところがなかなかエグくて。
 けれども実際色々な物事なんてそんなものなんだよなぁという想いがまずあって、得心いったところが個人的には強かったです。
 
 
 「お前たちは実はパソコンの中に作られた仮想現実の世界の住人である」
 「世界が作られたのは、一人の女子高生のたわむれ。その費用も彼女の小遣いで賄える程度」
 「彼女は死んで世界にパンデミックも流行ったが、別になんのことはない。たまたま彼女の孫が世界を覗き込み、観測できるようになっただけ」

 こんなことを言われて、まぁ正気でいられる自信はぼくにはないです。
 一方で、このあたりの真実をそれとなく感じ取っていたナツノのメンタリティはさすがとしか言えない。感染者を目の前にして焦らないだけある。ナツノさんと呼んで慕わせてもらいたい。

 とはいえ、今まで強靭メンタリティを見せていたナツノも、また一人の思春期の女の子だったことが分かる終盤はナツノカナタ全体のテーマと噛み合っていて、大変に素晴らしかったです。

 意味がない世界なんて消えてしまっても構わない。
 だけれども、誰かと繋がっていたいという想いも嘘ではなく。

 そんな想いを抱いていれば、そりゃあまた疲弊していくのもまた当然のこと。
 それでも意味を見出し、今日も生きていくことを選んだナツノ。物事への構え方がちょっと卓越しすぎていて、やっぱりナツノさんって慕わせてもらいたい。
 
 
 
 ジュブナイル系からセカイ系へと至り、そしてまたジュブナイル系へと。
 全体的な印象としては、そんな風に回帰していった印象です。
 世界の命運が委ねられた一人の少女が、消極的に世界を受け入れていくことをやめ、自分の方から意味を見出して日々を生きていくことを選んだ物語。
 最終的な到達点は平凡だけれど、特別じゃないからこそ納得させられるところがあります。


 たまたま拾ったバールで危機を脱したことも。食糧難のタイミングで運よく食料庫の地図を見つけたことも。レアアイテムをゲームオーバーぎりぎりで確保できたことも。
 そこに見えたドラマはただの妄想。
 世界に意味があるという想いが作り出した、都合よく見出されただけの幻想に過ぎない。

 しかし、だからこそ面白いわけです。

 起こったことはただの偶然でも、心での抱き方でいかようにも物語は彩られる。
 自分自身が終わろうとしない限り、人生はひたすらに続いていきます。
 それをどうふうに受け止めるかは自身次第。とりわけ、世界の在り方なんて関係あるはずもなし。
 先のことなんて、なおさらそう。全ては、偶然にどういったことを見出すだけでしかない。
 
 
 そんな部分がメッセージとして込められていたりするのかな、とはなんとなく思ったり。
 どうせなら、前向きに、そして自分にとって楽しいものを見出していきたい。
 そんな気持ちになりました。


 作品としては続編などを作る滑稽に見えちゃう(ナツノの人生は、ナツノと「あなた」に委ねたい)ところもありますが、サブキャラであり個人的に作中で一番好きなイツカ視点の、世界の謎に改めて迫るようなお話は見たいなと思いました。ナツノカナタはナツノの物語ですが、イツカが世界に対して見出したものが結実した物語というのは、それはそれでありな気はします。あまり厳密には世界観を繋げず、パラレルワールドみたいな仕立て方でもいいかもしれませんが。


ナツノカナターー世界の在り方とは関係なく、ナツノの物語は続いていく





 あと、水着キャラストーリーが欲しいです(切実)。
 夢オチで良いので、イツカやアカネ、シノやキコ等のキャラ全員集合で水辺でキャッキャッするやつ!
 目が覚めたあとに、そういう未来が来たときに備えてナツノが水着を物色して、微笑んで終わる感じのやつを!有料でいいので!有料でいいので!!お願いします!!!

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