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【感想】映画「シャン・チー/テン・リングスの伝説」~絶対子どもが真似したくなるヒーロー~

 2021年7月9日、映画「シャン・チー/テン・リングスの伝説」の上映が開始された。
 『ブラック・ウィドウ』に続くMCUフェーズ4作品の第2弾、そしてMCU初のアジア系ヒーローを描く本作は、色々と注目は集めていたが期待値というところであまり高くなっていなかったように感じられる。知名度というところではだいぶ低く(これは大体のMCU作品で言われるので宿命みたいなところはあるが)、注目を集めているアジア系ヒーローという部分についても、日本人視点でいうとあまり目新しさを感じられないところがあって、事前評価の点数をうまく稼げていなかった印象である。
 MCU作品だから見るかも、という程度の温度感でいる人は割と見掛け、正直ぼく自身もそれに近いタイプではあった。予告自体もいまいちパッとせず、洋画でおなじみの「家族の確執を中心に添えたアクション映画」をアジア俳優に置き換えたぐらいのもの、という印象が一番大きいもの。テン・リングスも良い小道具ではあるものの派手さに欠くのは否めず、敷居はだいぶ低くした上で鑑賞には挑んだところがある。


 ……と、こんなネガティブな前置きを書いてある以上はお察しだと思うが。
 詳しい感想は後述するとして、端的に言うとだいぶ面白い作品に仕上がっていた。
 そして、テン・リングスが超絶かっこよかった。本当に、凄く、良かった。



子供が絶対真似したくなるテン・リングス(ネタバレなし感想)


 何はともあれ、テン・リングスのかっこよさが異常なのである。

 もちろん、この映画の核となるアイテムなので描写が素晴らしくなるのは当然のことだ。
 だがそれを差し引いてなお、テン・リングス登場シーンの全てで心が躍ってしまうくらいカッコいいのである。戦闘シーンはもちろん(エフェクトの入り方が本当にかっこいい。父子対決での画面の作りはコマ送りにしたいくらいの素晴らしさで必見)のこと、テン・リングスを宙に浮かせて足場にするなど便利アイテムを手に入れたときにどう使うか、というのが細かく描写されているのがとても好印象だ。
 個人的なお気に入りのシーンは、高所から着地する際に地上へとテン・リングスを打ち放って衝撃を和らげるところ。高所への移動の際もテン・リングスが用いられるのだが、芸コマで行われる着地シーンの方がぼくの心をなんともくすぐるのである。


 パンフレットから仕入れた知識ではあるが、原作におけるテン・リングスは10本の指輪らしい。それぞれが炎や氷を出したりする特殊な能力を持っており、なるほど、よくマンガで重宝されるTHE・マジックアイテムといった風体である。それを現在のMCU世界観にうまく調和するように設定を変更し、カンフー映画からの着想を経て腕輪へと至り、10本の腕輪からなる現在のテン・リングスへと辿り着いたとのことだ。これももちろんマジックアイテムなのには違いないが、トニー・レオン演じるウェンウー、そしてシム・リウが演じるシャン・チーが駆使する伝説の武具としては最適なアップデートだったように感じられる。



家族の物語、そして提示されるフェーズ4の展開予告(ネタバレあり感想)

 一言でいえば、『シャン・チー』は家族の物語である。
 悪く言えばよく目にするテーマであり、この部分については目立った新しさというものはない。父親が悪の組織の首領である、というのはMCUの世界観に落とし込まれているがゆえの目新しさではあるが、『アイアンマン』や『ブラック・パンサー』等の作品でも父子の対立については描かれており、個人的にはこれらの過去シリーズで描かれていたことの方が複雑で好みではある。

 しかし、『シャン・チー』のそれは良くいえば王道であり、それゆえの面白さもある。

 今作のヴィランであるウェンウーは、妻・リーと出会うことで闘争ばかりの人生から抜け出し、妻を失うことで再び元の人生へとその身を置くことになった悲しい人物である。残された子供たちとはうまく接することはできず、妻への想いを利用されて世界を危機にさらす羽目になる……作品さえ違えば、彼自身が主役を張ってもおかしくはないバックボーンである。役を演じるトニー・レオンが「壊れてしまった人間」と称するように、ウェンウーはヴィランとは言い切れない要素を魅力として持っている。この魅力が劇中でもグッと伝わるのは、話の骨組みが父子の対立という、王道に根差していて分かりやすい構図となっているからだろう。目新しいベクトルで家族を描く物語の中だったとしたら、ウェンウーの魅力はここまで引き立てられなかったに違いない。


 意外であったのは、 『シャン・チー』 が思いのほかファンタジー寄りな作品と仕上げられていた点だ。

 同年公開予定の 『エターナルズ』はともあれ、『シャン・チー』はある程度の現実性を確保した上で物語を展開してくると想像していた。確かに中盤まではそうだったものの、物語の終盤は『ソー』を思い出させるファンタジーなモンスターとの戦いへと持続していき、最終的にはMCU作品の中でも幻想的な色合いを強めていったのは何とも印象深い。

 インフィニティ・サーガと呼ばれるフェーズ3の物語はSF色の強い軸から構成されていたが、フェーズ4での軸はファンタジー色が強いものになるという、『シャン・チー』での終盤の展開はマーベル側からの予告なのだろうか。今までのMCU作品にファンタジー要素がなかったわけではないが、それでもある程度の現実性を担保させるためにシリーズ上のリアリティラインは慎重に確保されていた。『シャン・チー』ではそれが若干崩されていたように思えるところもあり、個人的には十分受け入れられる範囲ではあったものの、毛嫌いする人も当然いたことであろう。これをどのように調整していく方針なのかは今後のシリーズ作品を追って判断するしかないが、個人的には少なくとも現状のリアリティラインを維持し続け、フェーズ3まで保ち続けてきた雰囲気をこれからも維持し続けてもらいたいと思う次第だ。

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