【感想】ザ・ライズ・オブ・ウルトラマンーー超越者と人間の融合
マーベルコミックがウルトラマンを手掛けるとして話題になった作品、『ザ・ライズ・オブ・ウルトラマン』。その和訳版がヴィレッジブックスから2021年8月2日に刊行された。
円谷と正式にコラボして送り出された本作は、初代ウルトラマンをベースとしながら「モロボシ隊員」を出すなど独自の世界観を作り上げようとしている。現代、そして外国を舞台に再構成される初代ウルトラマンの物語は一見馴染めないものと思ってはいたが、なかなかどうして面白いものである。ド派手で手を全く抜いていない怪獣との戦闘シーンは必見!
フルカラーのアメコミということもあって値段はそこそこするものの、魅力的な作品として確かに仕上がっている。気になっている人は是非手にとって見てほしい。続編となる『ザ・トライアル・オブ・ウルトラマン』もペスターが表紙に描かれた表紙をひっさげて今冬発売予定である。
円谷のサブスクリプションサービス『ウルトラサブスク』の有料プランでも閲覧可能なので、 マンガという物理媒体を避けたい人の場合はそちらを利用してみるのもいいだろう。
以下、若干ネタバレを含んだ感想レビューである。
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前述したように『ザ・ライズ・オブ・ウルトラマン』 はマーベルコミックが円谷との正式なコラボレーションの元で誕生した作品である。
知っている人は知っている話だが、00年代までの円谷は海外での放映権利等を巡っての問題にだいぶ苦しめられてきた。しかし2008年のタイ訴訟を皮切りにして、最近では2020年に決着がついたアメリカ訴訟を経て権利問題はだいぶ整理されてきた印象ではある。
2019年のyoutube独占配信作品『ウルトラギャラクシーファイト』は日本語版だけではなく英訳吹き替え版が、続編である『ウルトラギャラクシーファイト 大いなる陰謀』では更に中国語吹き替え版が追加されての配信となっている。また、ウルトラマンリブットといった海外出自のウルトラマンが客演することで大きく話題となった。円谷自身も海外展開は積極的に行っていく方針となっており、 『ザ・ライズ・オブ・ウルトラマン』 は米国でのファン獲得を目指した作品だと推測するのは予想に難くない。
そんなわけで舞台がアメリカの『ザ・ライズ・オブ・ウルトラマン』 だが、登場人物はだいぶアレンジされている。ハヤタ青年は正義漢の強く直情的なところもある若者で、 フジ女史も上司に反論を進言できる今時のヒロイン像としての色が強めてある 。ムラマツキャップも少し理知的で、組織の方針として保守的な隊長像として描かれている。
しかしこれに特に違和感があるわけではない。アメコミらしいというよりは、現代での作劇に合わせて変更したという意味合いが強いからだ。再構成された上記3人は実にうまく物語を展開してるため、読んでいての不快感は全く感じさせない。まぁそもそも外見が全然違うというのは置いておく。
登場人物として一番アレンジが施されているのが誰かといえば、それはウルトラマン自身である。
説明を全くしてくれないことに定評のある原作第1話の彼とは異なり、『ザ・ライズ・オブ・ウルトラマン』 のウルトラマンはよく喋る。とはいえ、それはニュージェネレーションズのような親しみのある話し掛け方ではなく、人間の遥か上の規範で動く超越者としてのものである。
ハヤタ青年と融合することになった彼は、人間を自律進化できない未熟な種族としてみなしており、ハヤタに体の主導権を放棄するように求める。ウルトラマンがそう認識するようになったのにはもちろん事情があるのだが、人間を自律進化できる存在だと信じるハヤタとは当然真っ向で対立する。
人間を未熟な種族と断言する宇宙人とそれに反論を行うウルトラマン(ないしその変身者)、という構図ならシリーズでもよく見るテーマだが、ウルトラマンと変身者である人間自身の間でそれが成されるというのはだいぶ珍しい。少なくともぼくは前例をぱっと思い出せない。
傍観者ではなく自分の意見を持つウルトラマンーー超越者である彼と、それに怯むことなく地球人代表として自身の種族を信ずるハヤタの対話。これがアメコミシリーズ第1巻 『ザ・ライズ・オブ・ウルトラマン』 の見どころの一つとなっている。
この問答がどのように決着をつけられているかは省くが、この人間を未熟な存在と認識しているウルトラマンが第2巻以降でどういう立ち回りを見せるのかは非常に気になるところだ。巻末にモロボシ隊員が出たことから、あのウルトラセブンが次巻で登場するのは間違いないだろう。大人向けウルトラマンとして製作された「平成セブン」では人間の愚行がクローズアップされたこともあり、アメコミ版で再構成されたウルトラセブンがそちら側の性質を担っていてもおかしくはない。その際に、ウルトラマンが超越者と人間のどちらの味方をしてどのような結論に至るのか。今のところ予想はつかないが、きっと面白い議論を展開してくれるに違いない。
『ザ・ライズ・オブ・ウルトラマン』 が提供してくれた新しいウルトラマン像を、今後も楽しんで見守りたい。