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【感想】小説仮面ライダージオウがジオウ小説としてもタイムミステリーとしても面白かったという話

小説・仮面ライダージオウ
小説 仮面ライダージオウ 講談社キャラクター文庫

すべての戦いが終わり、正しい歴史「真逢魔降臨暦」を書き記そうとするウォズに、次々と奇怪な事件がふりかかる。ソウゴ、ゲイツ、ツクヨミとともに、その裏に隠された陰謀をあばくための、冒険の旅が始まった。しかし、様々な時間の中で消えていく仲間達! 次々と襲い来る予想外の敵の前に、絶体絶命のピンチが!!

https://bookclub.kodansha.co.jp/buy?item=0000353367


 2021年7月29日、去年から予告されていた小説仮面ライダージオウが発売された。ところでビルドは?
 執筆はジオウでメインライターを務めた下山健人さん。面白い脚本を書く人の文が小説としても面白いとは限らないものではあるが、今回は心配無用である。テレビシリーズで描かれていたジオウ本編の雰囲気が実にそのまま再現されていることはもちろん、テレビシリーズのキャストがそのまま演じているような空気感は確かにそこにあり、また小説としても非常に読みやすい。私自身も小説としてのハードルは落としてみるかと高を括っていたため、小説としてのこの完成度は予想外の収穫であった
 
 以下ネタバレ感想を含むため、物語を初見で楽しみたいという人は注意していただきたい。
 特に今回はミステリー部分もあるため、その部分についても多少なりとも触れているのでご承知を。
 2段落に分け、微バレ感想⇒ネタバレ感想と進んでいくのでよしなに。



実質NEXT TIME ウォズ



 あらすじから察せられるように、今回の物語の主人公はウォズである。
 時間軸的には「仮面ライダージオウ NEXT TIME ゲイツ、マジェスティ」の前ではあるものの、実質的にはその続編である「仮面ライダージオウ NEXT TIME ウォズ」の名を冠してもおかしくない。それほどのウォズ密度である。ウォズウォズウォズ、ウォズ純度が満ち満ちている。もちろんウォズの心情やパーソナリティが新たなに掘り起こされるため解釈違いとする人もいるだろうが、テレビシリーズのウォズファンには受け入れやすい作品になっているのではないだろうか。彼の心境が語れる媒体も早々ない。


 そう。本作の一番の見どころといえば、世界が新生したあとにたった一人記憶を維持することになった彼の心境が全編を通して描かれている部分であろう。

 
 改めて考えてみれば。
 テレビシリーズ第1話から登場した彼の素性は、放映終了からだいぶ経つ令和3年現在でも不明な部分が多い。
 元々は2068年にゲイツやツクヨミと同じように反オーマジオウのレジスタンスに所属し、その裏ではオーマジオウとの繋がりを持ち、また映画『仮面ライダージオウ Over Quartzer』では時の管理者・クォーツァーの一員であることは明かされた。しかし狂言回し的な立ち振る舞いと相成ってか、彼自身に纏わる情報自体はあまり描かれてきていない。
 もう一人の彼である白ウォズと対峙したとき、あるいは『Over Quartzer』においてクォーツァーとしてではなく常盤ソウゴの臣下として行動を起こしたときこそ本当の彼らしさ(のようなもの)が垣間見えるが、それらを除くと彼は大体において自分の役割をまっとうする演者のように感じる。


 そんな内面が描写されることの少ない彼が、小説冒頭から世界新生について「ほんのわずかではあるが寂しさを覚えた」と語るのはなかなかに印象的だ。この感覚は小説全体を通して彼が抱き続けるもので、読者としてはこの寂しさがどういったものへ至るのかを見届けるのが一つの目的となっている。
 自分自身にしか残っていないジオウ本編の歴史を「虚無」と捉えるウォズ。かつての主とは近しくも遠い存在である「新たな魔王」と出会い、彼は改めてあのジオウの歴史を見つめ直していくことになる。
 その到達点は、メタ的にみればそう珍しいものではない。だが、ジオウという物語に1年魅了された私のようなファンにとって、ウォズの物寂しい認識が少しずつ変わってく様を見ていくのはとても面白かった。


 媒体が小説という内面描写に長けた媒体なだけあって今作のウォズはひたすらに雄弁だ。本編では決して言葉に出さないような、我が王・常盤ソウゴに対するツッコミが頻発されるのにはだいぶ笑わせてもらった。ところどころメタ的なセリフやネタが繰り出されるのも、ウォズだからこそ許されている部分があって、それがとても面白い。

 今回ウォズの全てが紐解かれるわけではないが、テレビ本編ではほとんど登場していなかったレジスタンス時代のエピソードなどが語られるのは非常に魅力的だ。同時に、物語全てを俯瞰するという彼の立場が小説媒体と実に嚙み合っており、物語自体の読みやすさへと繋がっているのは素晴らしい。


 仮面ライダージオウのスピンオフ作品はゲイツマジェスティ、7人のジオウ(+ディケイド館)と公開されてきた。しかし放映期間中の関連映像作品で数えると結構な数になり、今回の小説ジオウでジオウ関連の商品展開は一区切りとなりそうな予感もある。
 しかし願わくば、この小説がきっかけとなって映像作品としての「NEXT TIME ウォズ」が製作されることを望みたい。小説仮面ライダードライブの出来事が『仮面ライダーマッハ』の前日譚として描かれたように、この物語を経て成長したウォズをあの3人と共に並んで立つ姿を見たい人は、きっと多いはずだ。



ジオウ本編では出来なかったタイムミステリー(ネタバレ注意)



 今作の魅力の一つとして、ジオウ本編では出来なかった本格的なタイムミステリーの描写がある。 テレビシリーズでは時間移動を頻繁に用いるものの、その移動自体をトリックとして用いることが少なかった。今作で描かれている時間を用いたこのトリックは、その憂さ晴らしをしているか如くの複雑さだ。
 さて。既に読んだ方はご存知だとは思うが、改めて整理すると本作には大きな時間の流れが4つ存在する。
 
 
 1.最低最悪の魔王オーマジオウ統治の2018年(第1の歴史。ゲイツたちが元々いた世界)
 
 2.正史の常盤ソウゴにより破壊された2018年(第2の歴史。テレビシリーズ本編の世界)
 
 3.正史の常盤ソウゴにより創造された2018年(第3の歴史。ゲイツマジェスティ等に続く世界)
 
 4.裏の常盤ソウゴが作り出した異なる2018年(第4の歴史。新たな魔王の存在する、小説ジオウの世界)
 
 
 構造的には「1⇔2⇔3」で物語が展開していると錯覚させつつ、実は「2⇔3⇔4」で展開していた。
 3の歴史の先にいる「第3のウォズ」が、正史以前たる1の歴史に戻そうとした。それが今回の事件の大きな流れとなる。
 その動機は”アナザー”と冠するオーマジオウを従者として容認できないという、彼の忠臣ゆえのもの。自分勝手といえばそれまでだが、ウォズらしいという一点においては納得せざるをえない理由だ。

ウォズの変化、アナザーオーマジオウと新たな魔王を分けたもの



 今回の物語は新生した世界で寂しさを覚えたウォズの物語である。
 彼の寂しさを代弁するかのように第4の歴史のオーマジオウ(以下、アナザーオーマジオウ)は自身の虚無性を語る。
 それを否定するのは、新たな魔王こと第4の歴史の常盤ソウゴである。
 

「もし答えが原点に戻ることでも、俺は俺の過ごした時間を虚無だなんて思わないよ。(中略)
 誰の記憶に残らなくても、記憶に残されなくても。
 それがあった事実だけで俺はいい」

小説 仮面ライダージオウ


 
 未来の自分に全く怯まず、どうあっても自身は消滅するという未来を理解してなお、彼は自分の虚無性をはっきりと否定する。 アナザーオーマジオウは新たな魔王の未来の姿である。自身の未来であった魔王とは異なる答えを彼が出せたのは、何故なのだろうか。
 言うまでもなく、ウォズとの冒険の思い出である。

  アナザーオーマジオウの過去にも、ゲイツやツクヨミ、そしてオジサンとの接点はあったはずだ。
 だが、恐らくウォズはほとんど常盤ソウゴに接触したなかったのではないだろうか。白ウォズの介入がない以上はゲイツマジェスティの事件も起こらず、事件が起こらない以上はウォズは傍観者として常盤ソウゴには関わらない道を選んでいたことが予想される。そして、常盤ソウゴはウォズとほとんど関わることなくオーマジオウに至ったのだろう。平成ライダーではなく、アナザーライダーの力を統べる魔王として。
 
 新たな魔王はウォズと共に2068年に赴き、彼と少なからずの時間を過ごした。
 ウォズとの冒険の思い出の有無は、記憶の量という観点でいえばほんの些細な違いでしかない。
 しかし、その些細な思い出こそ新たな魔王にとっては重要なものだったのだろう。彼が自分の過ごした時間は虚無ではないと断言できる程に。



 全てが終わってみれば、第4の歴史は消え、『小説 仮面ライダージオウ』の物語はなかったものとなった。
 しかし、ウォズ自身に変化をもたらし、虚無から来る寂しさを別の何かに変えたのは間違いなく、彼と新たな魔王の冒険があったからこそだろう。願わくば、映像作品としての「NEXT TIME ウォズ」へと繋げてもらい、ウォズの変化をもっと見ていきたいものである。

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