【感想】FGO2部6章「アヴァロンルフェ」~本当の終わりを迎える前の備忘録~
スマートフォンアプリ「Fate/Grand Order」の2部6章の感想です。
2021年6月11日に配信された前編、2021年7月14日に配信された後編のネタバレを含みます。
閲覧にはお気をつけて下さい。
……本当に気を付けるべきはシナリオ本編の可能性? それはそう。
アルトリア「はい!いきましょう!風と土と生命、詩と雨に愛された理想郷――
Fate/Grand Order 2部6章より
多くの妖精たちが暮らす黄昏の島、ブリテンへ!」
–滅びろ妖精國–
後編を最後までやり終えたマスターのほとんどが、おそらく妖精國ブリテンの滅亡を願ったことかと思う。
全ての想定が反転し、モルガンへの想いが完全に逆転する圧倒的シナリオ力。
さすがは奈須きのこだ。早くエピローグを出してくれ。いや分割法を提案したのは開発元だと思うけど。
妖精とは実は無邪気で残酷な存在である。
…というのは、実際のところ多くのプレイヤーが別作品や書籍等で触れているテーマではあると思う。
ぼく自身、大学時代に読んだ民俗学研究の本でそういう類の知識を仕入れた記憶がある。あるいは、文庫本サイズの雑学本だったか。
主題ではなかったものの、三田誠の「レンタマギカ」でも妖精についてはそのような記述がされていた記憶がある(違ってたらごめんなさい)。
妖精は可愛いくて美しいもの――と幼少時に刷り込まれている人は多く、ファンタジーな彼らが実はそうではないという知識を提供するのは、単純ながらカタルシスを生み出しやすい。そのため創作作品としては割と突っ込まれやすい要素ではあるし、今回のアヴァロンルフェで今までの妖精観が初めて崩れ去った、という人はそんなにいないのではないのだろうか。
決して珍しくないはずのこのテーマで、奈須きのこはどういった妖精像を結んでいくのだろうか。
面白い物語を見せてくれるのは間違いない。彼に対するその信頼感はある。
だが、果たしてそれはどの程度面白くなるのか。
ぼくの観測範囲ではそういった部分に着目している人が散見され、ぼく自身もそう考えていた。
それを見定めたくてシナリオ公開初日からバンバン読み進めていったわけだが、予想を遥かに上回る面白さでびっくりした。
FGO2部6章に登場する妖精國は、アーサー王伝説で有名なモルガンが女王として治める国である。
「私は妖精たちを救わない。私は妖精たちを許さない」
ことあるごとに挿入される女王モルガンのこのセリフは、彼女の悪役として印象を否が応でも強めるものだ。
実際、妖精國に住む妖精たちは女王モルガンによって存在税を課せられている。税金という形で魔力を定期的に献上しなければならないのだ。
そして、人間の出産管理を管理をしているという、物語途中で明かされる非人道的な事実。合わせて考えれば、どうしても彼女が悪政を行っているという印象を抱かざるをえない。
しかし、それは妖精たちの本質を見抜けていないからこそ抱いたもの。
女王モルガンに仕える氏族の長たち、円卓の名を冠する妖精騎士たち、そして進歩しようとする一部の妖精たち。
彼らの印象を全ての妖精に当てはめようとしていたために、女王モルガンが語っていた言葉の真意に思い至らなかった。
後編第24節「モルガン」で描かれた妖精たちの本質は、それまでの前提をあまりにも無惨に破壊しつくしたのであった。女王モルガンが救わないと明言した彼らには、そう言いたらしめるだけの理由があったのだ。
思い返せば、彼らの本質は最初に訪れたコーンウォールで十分に掲示されていた。あの街こそ、妖精國の縮図だったのだろう。
刹那的で独占的な妖精たちは、妖精國の中心であろうと外れた場所であろうと変わらなかったのだ。
まだ本当の結末を迎えてはいないのだけど。
モルガンとバーヴァン・シーの二人にはカルデア内で幸せに暮らして欲しい。胡乱なイベント内で仲睦まじく。
-変わらないはずの者たちから芽生えた者たち-
24節「モルガン」を終えたあとにシナリオを読み返すと、史族長と呼ばれる彼らがそう呼ばれるに足る性質を十分に持っていたことが理解できる。
己が部族の罪と向き合って礼節を敷いていたウッドワス。
異郷の地に迷い込んでも屈せずひたすらに生き残ろうとするスプリガン。
自分の「夢」のために機会を待ち続けたムリアン。
新しき女王になるため邁進するノクナレア。
未来を変えるために動き続けたエインセル。
妖精國の妖精たちの性質から考えると、自分自身の意思で何かをしようとうる彼らはだいぶ特異な存在だ。
彼ら自身の才覚や能力が他の妖精と比べて抜きんでているところもあるのだろうが、何より変わろうとする心根が妖精國内において稀有なものだ。
女王モルガンが氏族という制度を維持し続けたのは、氏族たる彼らが強く進歩性を持ち続けていたことが理由なのだろう。牙の氏族の凶暴性という短所を認めて改善しようとし、氏族全体の成長を促そうとしていたウッドワスが良い例だ。彼の試みは反発も生んでいたが、その存在自体が氏族全体に理性的なものをもたらしていた。彼の死後の氏族の行動からそれは伺える。
「救わない」とは言ったが、妖精たちが救われないことを女王モルガンは望んでいたわけではない。
妖精國の存続だけを目指した彼女は、同時にそこに住む彼らの成長も程度の差はあれ望んでいたのだろう。
-滅ぶべくして滅びる國、そこから更に世界を滅ぼすモノ-
風の氏族長であるオーロラが 24節「モルガン」で伝えてきた内容はなかなかの爆弾だった。
全ての情報が真実かは分からないが、特に気になったのは以下の部分だ。
オーロラの声「世界中に溜められた魔力を奪って、世界樹を枯らして、その魔力で、私たち妖精を蘇生させたのです。なんでも、カルデア式召喚、と言うのだとか」
Fate/Grand Order 2部6章より
妖精たちにはサーヴァントと妖精の見分けがつかない、とグロスターのオークション会場でオベロンが言っていたが、あれは伏線だったのだろうか。妖精國の妖精はモルガンによって召喚された存在≒サーヴァントだと、オーロラは言う。
召喚したマスターが消えたとき、サーヴァントはどうなるのだろうか?
もちろん、妖精たちはあくまでカルデア式召喚で呼び出された存在でサーヴァントそのものではないはずだ。境界記録帯に保存されている妖精の情報を元に召喚、あるいはその情報自体を消えかかった妖精に付与したデミ・サーヴァントに近い状態なのかもしれない。妖精を「個」として蘇生させたのか、それとも「郡」として蘇生させたのかといった部分で考察を巡らせるのも面白い。
細かいところについては本編で明かされるとは思うが、なかなかに面白い状態である。
だが、女王モルガンが死ぬとき、妖精國たちの妖精もまた消え去る。その可能性は十分にありえるだろう。
妖精たち自らが女王モルガンを手にかけたことにより、自分たちもまた滅びようとしてのはなんとも皮肉というしかない。本当にそうなったとしたら、滅ぶべきして滅んだとしか言いようがない。
そして妖精國の存続はまだ終わっていない。
女王モルガンでさえ塞ぐことのできなかった大穴に眠る、ケルト神話の冥府神・ケルヌンノス。
妖精たちは自らのマスターを殺めただけにとどまらず、「血染めの王冠」を彼の神に届けてしまった。
果たして、妖精國の末路はいかがなものへと至るのか。
2021年8月4日。絶対1節では終わらないはずのエピローグを楽しみに待ちたい。