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トレパクAIイラストと規制の行き先(AIイラスト備忘録)

 日本のSNSでAI学習を利用した画像生成サービス(以下AIイラスト)に関するあれこれが話題になった、2022年8月のAIイラストメーカー「mimic(ミミック)」のリリースとサービス停止から早4ヶ月。その新たな技術やサービスに関するイメージは、ネガティブ側へ大きく傾いたまま認知度を上げている。


 画像制作ソフト「CLIP STUDIO PAINT」は新機能である画像生成AIパレットの実装を告知したものの、その利用や学習元データについてネガティブな声が多く寄せられたことで「皆様の気持ちに寄り添えなかったことを反省」する形でとりやめた。
 比較的利用の敷居感が低い「NovelAI(2022年10月サービス開始)」の登場前後からは国外サービスも認知度を増し、イラスト投稿サイト「pixiv」やダウンロード販売サイト「dlsite」では数多くのAIイラストが投稿されることとなった。pixivやdlsiteでは投稿作品にAI生成作品であることを記す項目が設けられることとなり、その存在を許容しつつもAIイラスト以外の作品との住み分けを積極的にお願いする姿勢を取る方向へと進んだ。動画サイト「ニコニコ動画」およびそれに関するサービスについても、「AIを使って出力した生成物をそのまま作品収入申請し奨励金を得る」行為についてNGを出し、AI生成物とそれ以外の一線を引くことを表明した。
 それ以外にも、2022年後半期では少なくないSNSやサービスでAIイラストに対する姿勢が示されたわけだが、いずれにサービスにおいても住み分けを進めていかざるを得ないような、おびただしい数の問い合わせがあったのだろうと個人的には考えている。


 AIイラストに対する世間的な評価は、(Twitter上で観測する限りは)はっきり言って悪い。
 法的な観点からは問題ないとされてはいるものの、他人の成果物を元に生成しているという部分に対して、どうしても「パクリ」というネガティブな概念が入り込んでしまうのが原因だろう。実際に第三者の作品を元に生成しているか否かに関係なく、AIイラストは何かしらの作品の不誠実な模倣品であるという考えが蔓延している。ありふれた構図の作品があったとして、それが人間の手によるものであれば許容されるさるかもしれない。ただ、それがもしAIイラスト由来のものであるならば、そのときは容赦なく批難の的とされてしまうのが現状であろう。
 AIイラストが世間的に認められるためには、いかに「パクリ」ではないことを示さなければならないのだが、なかなかどうしてそれも難しい話ではある。


 2023年1月10日。
 AIイラストを対象としたトレパク画像検証アカウントのツイートが拡散され、界隈で話題となった。この手の検証行為がなされたのが初めてだった…わけでは当然ない。このツイートがバズったのは色々とタイミングが重なったところもあるのだろうが、トレパクとされたアカウントがAIイラストを作成するイラストレーターのものであり、またAIイラストレーターのネガティブに見られがちな現状を変えようと積極的に行動している立場にあったことも注目を集めた要因の一つであろう。
 その検証については他のAIイラストレーターも動き、(この記事を書いている自分のような人間も含めた)門外漢たる外野勢もあれこれを語る状態へと陥った。日付が変わった1月11日現在では検証も「偶然の一致」として一旦箸を置かれる状態になりつつあるが、その真偽についてもやはりネガティブな反応を示している人たちが多いような印象を抱く。むしろ、ネガティブ方向へと一層進んでしまったような感触さえある。


 AIイラストの性質上、これからも「パクリ」かどうかの是非を巡っての論争は続くだろう。
 とはいえ、AIイラストを規制することはほぼほぼ不可能だと個人的には考えている。

 提示されたAIイラストが「パクリ」であるかどうかを見極めるのは、現時点では高度な検証スキルを必要とされる。構図や色使いが瓜二つのパクリ/パクラレのAIイラストを目にすることはあるが、それを「パクリ」とはっきりと断じるには、これまでのパクリ/パクラレ作品を見極める以上のスキルが欠かせない。

 例えば、輪郭線が重なっているレベルであれば話は早い。二つのイラストの線が著しく一致しているのを理由として、それぞれの作品の発表年月日を照らし合わせればパクリ/パクラレの関係性は客観的にも見いだせるはずだ。AIイラスト登場以前の「パクリ」作品においては、この手法によって検証画像が作られていることがほとんどであった。満場一致で「パクリ」として認定してしまうことも可能であろう。

 しかしながら、AIイラストにおいてはそうもいかない。輪郭線レベルでいえば一致していないことの方が多く、瞳や手といった細かなパーツは新たに生成し直されていることがほとんどである。確かに全体的な印象で言えば同じもので、構図や色使いも似通っているかもしれない。だが、作品の共通事項がこのレベルにまで曖昧になってしまうと、客観的に「パクり」と言い切るにはいささか抵抗感が出てしまうのは否めない。オマージュとして受け入れる人間もいるだろうし、必ずしも「パクリ」として認定できるレベルではなくなってしまっている。そこから先の検証となると、同業であるAIイラストレーターやそれに準じる検証スキルを持つ人でなければ客観的な証拠を提示できないはずだ。

 それでも「このAIイラストはあの作品を生成元とした作品でパクリにあたる」という想いを抱くこともあるだろうが、AIイラストレーター側が「パクリ」ではない範疇で作品を生成していると主張するのならば、軍配が上がるのはおそらくAIイラストレーター側である。生成元のイラストをそっくりそのまま提出しているのならばいざ知らず、AIイラストを生成するにあたっては実際様々な手法を取り入れて出力がなされているだろうし、作品を生み出す際に既存のイラストを参考にするという行為自体はアナログ時代から続く創作活動での一手法でしかない。これは、感銘を受けた作品を下地にして新たな作品を生み出すということに他ならず、安易に制限をかけたり規制を敷いたりできるものでもない。


 とはいえ、実質的な規制が難しいとしてもそれに準ずるものを求める声は、AIイラスト関連の騒動があるたびに増していっているように感じられる。ただし、その声は当事者であるイラストレーターの側から発せられることは最近あまりなく、どちらかというとそのファンの側から湧き上がっているのがほとんどであるような印象だ。第三者の立場でありながらだいぶ熱狂的に盛り上がっているその様は、「パクリ」は許さないとする、そんな正義感や嫌悪感にかられてのものなのだろうと個人的には考えている。
 2022年の後半期の段階では、多くのサービスがAIイラストとそれ以外の作品との住み分けを暫定的に行い、当座をしのいだ。しかし将来的には利用者の熱狂的な声にかられて、さらに確固たる線引きを行わざるをえない状況になると予想される。いたずらにAIイラストを規制することは諸々のサービスにおいても避けたいことだろうが、それでも利用者側の声が大きくなればさらなる対応を迫られることになるだろう。
 AIイラストも併存するような道が拓かれることが理想ではあるのだが、見敵必殺の勢いでAIイラストを葬り去ろうとする現状ではそれは難しく感じる。うまい落としどころが見つかればとは思うのだが、今回はあくまで備忘録ということで筆を置くこととする。

 良い考えが思いついたら、続きます。




備考:
・AIイラストと一口に言っても、その生成方法には様々な手法が存在する。同じAIイラストレーターだったとしても、生成元であるイラスト、生成するにあたって利用したプログラム、そのプログラムで指示した命令文などが分からなければ同じようなイラストは生成できない。今回の騒動でも検証用に上記情報が収集されており、最終的には「偶然の一致」として話は落ちつけられたようである。

・「新たに生成し直されている」のか「人間の手によって描かれ直されている」のか。その識別はだいぶ難易度が高く、AIイラストに対して安易に規制を敷くと「AIイラストのようなイラストを描く」人に対しても影響が及び兼ねない。

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