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コミケにおけるチケット導入による功罪

 コミックマーケット(以下コミケ)が入場制度をフリー入場からチケット制に変更してから、2年の年月が経過した。開催日当日に気ままに入場するといった芸当は不可能になり、会場入りするためには一月前に開催される抽選制のチケット争奪戦で当選しなければならなくなった。紙カタログやWebカタログで事前チェックしておけばいいという風景は完全に過去のものとなり、現在のコミケは参加するにはだいぶ敷居の高いイベントになってしまっている。言うまでもないことではあるが、悪いことばかりではないものの、当然良いことばかりであるわけでもない。
 コミケにチケット制が導入されたのは、新型コロナウィルスの流行による人数管理の意味合いが強い。2023年1月23日現在、新型コロナウィルスを2類相当から5類化する動きが積極的に進められており、この動きの影響は早ければ今夏開催予定のC102にも反映されるだろう。チケット制自体の廃止はないと思われるが、午後からの入場をフリー入場にする等のある程度の緩和は行われるものと推測される。
 今後のコミケにおいてチケット制が廃止されるか維持されるかは定かではないが、今のタイミングだからこそ残せるということでC101終了直後の所感をまとめておきたいと思う。

駆逐された徹夜組

 チケット制導入におけるメリットとして、まず間違いないものとして挙げられるのは徹夜組の撲滅だろう。実際に自分の目で確認したわけではないが、近隣住民や会場付近のホテルに宿泊した人たちがSNSにあげられる情報からは否定材料は認められない。チケットに指定の入場時間が記されている以上、徹夜する意味がないのだから至極当然なことではある。
 
 コミケにおける徹夜組の存在は、長年議論の的となっていた。諸注意を記したカタログには深夜来場の禁止が謳われているものの、実態として「ボランティア」が列形成する様をいくつかのメディアも取り上げている。徹夜組に明確なペナルティが課された前例もなく、結果的にはやったもん勝ちな状況となっていたことは否めない。未成年とおぼしき姿も散見されていたと言われ、大規模な補導問題に発展してしまえばコミケ存続すらも危ない、とは毎年のように囁かれていた。

 そんな徹夜組の存在が一掃されたのだから、それだけでチケット制導入の意義はあったように思える。後述するような問題点は確かにあるが、それでも長年続いてきた悪習を断てた功績を個人的には高く評価している。

若い世代にとってのチケット

 コミケの入場には年齢制限はない。
 会場内にはR18作品を始めとする未成年を想定していない頒布物はあるものの、あくまでその頒布に関して責任を持つのはサークル側であり、老若男女、国籍を問わずして会場内に立ち入ることが可能だ。是非はともかくとして、赤ん坊や幼児を連れ込むことも禁止はされていない。
 とはいえ、チケット制導入によってその趣は実質的には変化してしまった。

 C99からC101におけるまで、チケットの入手は票券管理システム「チケットペイ」を用いて行うこととなっている。手順として、まず開催日(1日目・2日目)と開催会場(東・西・南)によって区分けされたチケットから任意のものを選択し、抽選に受かった後に最寄りのファミリーマートで代金を支払って発券してもらう、といった形だ。発券されたチケットには指定のチケット受付時間が記述されており、会場到着後にそれぞれの待機列に並ぶこととなっている。抽選販売後の先着順販売におけるサーバー落ち等の話を除けば、大きなトラブル自体は発生していないようではある。

 一方で、入場に際して有料チケットが必要になり、参加者への金銭的負担は増加した。それに伴って、あまりお金を出せないような若年層の入場者数が少なくなっているような話も出て来ている。
 実際に少なくなっているかどうかについては諸説あるものの、C99以降毎回会場に足を運んでいる身としては、高校生以下の姿はやはり減っているように感じられた。C99で2000円で販売されていたチケットは、C101では1500円になっており回を増すごとに値下げの傾向にはある。それでも学生等の若い世代にはそこそこの負担になるし、よしんば1000円まで価格が落ち込んだとしても同人誌1冊分の値段に届いてしまう。会場に赴くのではなく、通販や同人誌専門店を利用する方向に舵を取ってしまうのも致し方はないところはあろう。

 値段自体ももちろん足枷になっているのだろうが、それ以上にチケット入手時に入場時間を指定できないのも若い世代にとって足を遠ざける要因になっているのではないかと、個人的には考える。友人との待ち合わせのハードルが、チケット制導入以前と以降ではだいぶ異なっているのだ。

 戦場とも称されるコミケだが、主立ってのところで言えば大規模なお祭りである。
 コミケ会場を一人で歩き巡るという人ももちろんいるが、知人・友人らを誘って一緒に歩き回る層というのも決して少なくはない。会場には友人と一緒に入り、頒布物入手のために一度解散、帰るときは会場内で待ち合わせて一緒に帰路につく、といった参加者の姿は男女問わずによく目にする光景だ。

 現状のチケットペイによるチケット購入では、抽選後にランダムの入場時間が割り当てられれる仕組みとなっている。チケット受付時間は一番早いもので8時開始、遅いものだと11時以降開始と3時間以上の開きが存在する。友人数人と一緒に申し込んで運よく全員が当選したとして、一人を除いて全員が早い時間に割り当てられてしまうと、大変に気まずいことになる。
 一番遅い方のチケット受付時間に合わせれば同じ列に並ぶことはできるが、そこまで考えを巡らせてわざわざ入場したいかというと、自分はそう思わない。後日友人と共に同人誌専門店を巡る方が心理的負担はだいぶ軽いはずである。コミケへの参加自体を見送ってしまうことだろう。

 午前入場自体にチケット入場の制限を設けるのは仕方がないとして、せめて午後入場がフリー入場なれば幾分かは改善されるのではないか…と思うところではある。

頒布物告知タイミングの早期化

 入場チケットの抽選販売申し込みは、コミケ開催日の一ヶ月前から開始される。1週間の応募期間が設けられ、さらに1週間の期間を置いてから抽選結果が通知されるといった具合だ。その後は先着順での二次受付が開始、コミケ開催日当日に限定数で午後入場チケットが販売される。午後チケットも先着順である以上、コミケ来場者のほとんどは一次受付である抽選販売へ申し込んだ人たちということになる。
 チケットの抽選販売申し込み時には、来場する開催日(1日目・2日目)と開催会場(東・西・南)を選択しなければならない。開催会場については午後から相互移動が可能になることもあるので多少の融通は効くが、参加日についてはどうしようもないだ。気が変わって当日会場に足を運んだとしても、午後チケットが売り切れてれば入場することは不可能なのである。

 つまるところ、一般参加者は開催一ヶ月前の段階でお目当ての頒布物を確認し終えている。自然と人が集まるようなメジャージャンルや大手サークルは別として、マイナージャンルや中堅・小手(零細)サークルにおいてはこのあたりを意識しなければならなくなった。チケット販売開始以降に魅力的な告知を打ち出したところで、当日チケットがなく足すら運んでもらえない可能性が十分にありえるからである。ひいてはコミケ開始前後に関わらず、常日頃からサークル活動をSNSに上げるなどして自サークルをアピールする重要性を説くようなメソッドも顕著に目にするようになった(とはいえ、この手の話は数年ごとにバズってもいたが)。

 とはいえ、基本的にコミケにおけるサークル活動はほとんどがアマチュアである。情報は古いが2011年頃にコミックマーケット準備会・コンテンツ研究チームがとったアンケートでは、7割近いサークルが収支が赤字であると答えている。それでもサークル参加するのは「自分の作品を他人に見てもらえる」といった理由が4割であり、税金対策であえて赤字を出しているという特殊な事例を除けば趣味で参加している層が過半数であろう。
 SNS上の広告戦略を意識して常日頃から同人活動しているといった層にとって、今のコミケは自分の実力を計れる良い市場になっている印象はある。しかし、それまでの中心的な層であったアマチュア色の強いサークル参加者が一気に切り捨てられている側面もあり、気負いせず参加していた層としては窮屈に感じる部分もあるだろう。
 プロ指向の強いサークル参加者を否定するわけではないものの、アマチュア色の強いサークルの作品を手にする機会が増えるよう、母数である一般参加者の入場者数はもう少し増やしていくべきだと考える。

チケット制の今後

 2022年末に開催されたC101での1日あたりのチケット販売数は、当日販売分も含めて9万前後。数字だけを見れば非常に多いものに感じられる。しかしながら、新型コロナ流行直前に開催されたC97での1日あたりの来場者数は約18万人を記録していた。実際には全盛期の半分でしかなく、開催日数自体も4日間から2日間へ減少している。来場者枠は4分の1まで制限されている状態だ。
 コミケにおけるチケット制は新型コロナウィルスの流行と強く紐づいている。今後の感染症対策が緩和するにつれ、チケット制にもそれに準じた手が加えらえることになるだろう。C99で実施されたワクチン・検査パッケージもC100以降は廃止され、入場チケットの販売数も回数を経るごとに増加してきている。いずれは全盛期の来場者数に戻るはずではあるが、1年や2年でそれを成し遂げるのは恐らく不可能であろう。

 チケット制の導入によって、長年言及されてきた徹夜組問題は一応の解決を見た。一方で若年層にチケットが届きづらかったり、アマチュアのサークル参加者の敷居が上がってしまうといった課題も同時に発生している。午前入場はチケット制を維持しつつ、12時以降の午後入場についてはフリー入場の枠を拡大していく、といった改善のメスが早期に入ればなと思う次第である。
 

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