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2020年東京オリンピック開催を1週間前に控えての所感~君は決して忌み子ではなかった~

 2021年7月23日、新型コロナウィルスの世界的流行によって延期となっていた東京オリンピックが遂に開催される。2020年と冠していながらの2021年に催されるこのイベントは、ぼくたちの遥かあとの世代における試験勉強で引っ掛け問題として採用されるのではないかと睨んでいる。決して出会うことのない未来の彼らが2020年代入り口のこの頃を俯瞰して見たとき、「こんなややこしいことするなら東京オリンピックなんて開催しなければ良かったのに!」などと思ってしまうのだろうか。あるいは、「何故ここまでの惨状の中で東京オリンピックを開催したのだろう?」と疑問に思ったりするのだろうか。
 



 2019年末。少なくともそれまでは、東京オリンピックは忌み子としてまでは扱われてはいなかった。



 確かに東京オリンピックを取り巻くもの全てが順風満帆だったわけではない。
 膨らみ続ける開催経費の見積もり額、五輪エンブレムの盗用疑惑、オリンピック以降の新国立競技場の運用見通しの甘さ、通勤時間帯の電車のダイヤ変更要請、ボランティアとして招集されるスタッフの募集要項、開催期間中の国際展示場でのイベント中止、などなど……。
 パッと思いつく限りでもこれだけのネガティブさがあり、恐らく自分の記憶していない問題も様々あったはずだ。



 ただそれでも、このイベントが催されていること自体は忌諱に触れるものではなかったと記憶している。



 東京オリンピックの招致が決まったのは2013年。アルゼンチンで行われた国際オリンピック委員会(IOC)総会でのことだ。
 2011年に起きた東日本大震災。それに関連した福島第一原子力発電所の汚染水問題などを理由に招致はうまくいかないと予想していたのだが、対抗としてあったイスタンブールから見事招致を勝ち取ったのだった。

 正直言うと、この招致の報にはあまりというか、全然興味がなかったというのが実際のところだ。
 招致決定当時はニュースで大きく扱われたと思うのだが、残念ながらそれを見た記憶もさっぱりない。
 『ラブライブ!』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』『はたらく魔王さま!』『変態王子と笑わない猫』『ふたりはミルキィホームズ』……といった、2013年当時に見たアニメの記憶の方が実に鮮明に残っている。特撮関連であれば、『仮面ライダー鎧武』や『ウルトラマンギンガ』をやっていた頃で、当時これらの番組を見ていたときの感情の方は今もはっきりと思い出すことが可能だ。



 ぼくが預かり知らないところでは、色々な問題点が指摘されていたことだろう。人によっては2013年の招致決定からずっと、東京オリンピックが抱える問題点について言及し続けていたのかもしれない。



 だが、ぼく自身がそうであったように、多くの人にとっても東京オリンピックは四六時中にわたって意識し続けるイベントではなかったと思う。


 曰く、「TPP合意で色々な分野に影響が出て大変なことになる!」だったり。

 曰く、「藤井聡太四段の躍進が29連勝を達成した!」だったり。

 曰く、「カルロス=ゴーンが箱に隠れて逃亡したらしい!」だったり。


 日々で流れていく情報は、オリンピックとは全く関係ないものがほとんどだった。
 たまに見聞きするニュースも、自民党が悪い、いや民主党が悪い。そんな政党批判に付随する、副次的な扱いにしか過ぎなかった。東京オリンピック自体の是非など、国際的に開催が決定した以上は覆りようがないのだから当然のことではある。

 ニュースという印象付けが少なければ当然意識する機会も減るし、そもそもオリンピック自体に興味を持てない人もいる。スポーツの祭典とは言うが、興味のない人にはとことん興味のないイベントなのだから仕方がない。少なくとも、ぼくにとってはそうだった。スポーツをするのも見るのも嫌いというわけではないが、他に優先したい娯楽は山ほどある。ぼくにとってはオリンピックに関係しない情報の方が面白かったし、本腰を入れなければいけない開催当日はさておき、メディアがひっきりなしにオリンピックについての情報を扱うということも当然なかった。



 スポーツに興味が自分たちにとっては、気付いたら終わっているイベント。
 その程度の温度感でいた人々も、東京オリンピックを1週間前に控えた今ではほとんどいなくなったように感じられる。東京オリンピックそれ自体に興味を持つ人々が増えたという、ポジティブな要素は皆無のままに。
 東京オリンピックは、たくさんのネガティブな想いを引き受けすぎてしまった。



 ドラッグストアの店頭からマスクが消え始めた2020年2月頃からだろうか。東京オリンピックがきちんと意識され、そして新型コロナウィルスと同一視されるか如く憎悪を向けられるようになってきたのは。
 国民全員が東京オリンピックを意識するようにはなったが、歓迎されているとは到底言えなかった。
 新型コロナウィルスの流行を防ぐ様々な手段が取られる中、ただでさえネガティブに見られていた東京オリンピックの開催は、そのヘイトを一手に担うこととなった。緊急事態宣言によって人の大型イベントは延期・中止をよぎなくされ、続く蔓延防止措置では飲食店における酒類の実質的な提供禁止が求められた。連日に渡り、これらの政策に不満を漏らす声が報道された。ワクチン接種は開始されたものの全てがうまくいくわけではなく、それ以外にも様々な場面で不安は噴出していった。


 何故こんな状態になったのかと尋ねられれば、ほとんどの人はタイミングが悪かったと返すしかないだろう。


 東京オリンピック開催に向けて、数多くの人々と時間とお金が動いた。
 4年一度の祭典に向けて日々練習に励んできた選手たちは言うに及ばず、会場等の新設や建て直しに動いた工事関係者、観戦客が快適に過ごせるよう努めていたはずのホテル関係者、国内外から訪れる人々の記憶に残るよう計画を練っていた旅行会社、ect……批判の的となることも多いが政府関係者も尽力していたはずだ。
 今なお世界を席巻するような記録的な感染症が流行さえしなければ、東京オリンピックはそれなりの結果は残していたのではないかと思う。東京オリンピック開催自体が国民から疎まれるような、最悪の状態と比較しても詮ないことではあるが。


 東京オリンピック開催まであと僅か。
 巷で囁かれているように新型コロナウィルスが国内でさらなる感染拡大を見せるのか、それとも摂取途中であるワクチンによって予想を下回る水準で感染者数を抑えるのかは現時点では不明だ。最終的な判断は全ての日程が終わったあとしばらく、症状が発症する2週間ほどしたあとに下されることとなるだろう。
 その結果次第では今の時点で自分が抱いている考えが変わってしまうかもしれないと思い、この文はしたためられている。
 開催の是非は1週間前のぼくには分からないけど、かつての東京オリンピック自体は、それほど憎まれる存在ではなかったことを記録しておきたい。そうでなければ、東京オリンピックを快く迎えようとしていた人々の記憶も変化してしまうような気がするのだ。確かにこのイベントを歓迎する光景はあっただから。

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