【感想】FGO第2部第6章アヴァロン・ル・フェ~戴冠式まで終えて~
さよならブリテン、さよなら妖精國。
滅ぶべくして滅んだ、さりとて美しい国よ。
2021年8月4日。Fate/Grand Order第2部第6章『アヴァロン・ル・フェ』のシナリオ最終章である戴冠式が配信された。前編、後編、戴冠式と計3編に分けて配信されたこのシナリオは、事前に行われていた記念配信内で語られていた通り、それぞれがライトノベル数冊分に匹敵する分量を誇る。にもかかわず、その量に屈することなく一晩で各編を読み終えたという人も少なくなかったことは、このシナリオがそれだけクオリティの高いものとして仕上がっていたことの証明になろう(もちろん、ネタバレ対策として早期に読み終えるしかない、というSNS社会における処世術の側面も多大にあるだろうが)。執筆担当者にFate/stay nightを手掛けた奈須きのこを据えたこのシナリオへの反響は大変に大きく、また彼自身のオファーで新キャラのキャラクターデザインとして羽海野チカとCHOCOが迎えられたことも、それに拍車をかけていた。
端的にいうと、期待以上の素晴らしいシナリオに多くの人が魅了されていたわけだ。
ぼく自身も例に漏れず、一晩とはいかなかったが、それでも各編を2日かけて読み終えた。物語を追っていくのは全く辛くはなく(道中の戦闘には苦戦したけど)、読み終えたあとは色々な感情が残ることとなった。
配信開始から一週間が経ったことで個人的な感想もまとまったので、感想記事として残しておく。
下記、シナリオ本編のネタバレ要素を含むため閲覧には注意してもらいたい。
–アルトリア・キャスターとモルガンーー二人の楽園の妖精–
第2部第6章を象徴するキャラクターといえば、まずはこの二人になるだろう。
楽園の妖精としてブリテンを訪れるものの、もう一人の自分からのメッセージを受け取ったことで妖精國を作ることとなったモルガン(ヴィヴィアン)。妖精國を治める暴君として描かれていた彼女の真実が明かされたとき、とても驚かされた。その結末には涙を流さざるをえず、戴冠式以降では完全に姿を消してしまうのが寂しくてならなかった。
次代の楽園の妖精としてブリテンを訪れたアルトリア・キャスター。彼女を憂うべくエピソードも終盤で示されるのだが、モルガンほどの落差というものは彼女については受けなかった。その内に秘めたら悲壮さは物語序盤からおぼろげながら確認できており、彼女についての悲しさについてはどちらかというと答え合わせをしていくような感覚に近くあった。モルガンと異なり、アルトリア・キャスターは最初からその悲しい結末を予感をさせる存在だったのだ。様々な妖精たちとの離別を追体験していく彼女の悲しさは、そんな予感が正しいことを如実に示していった。
この二人は似ているようで似てはいない。物語としても、正反対の立ち位置というわけでもない。
自分自身の國を作るという決意のもとに楽園の妖精の役目を放棄したモルガン。その反対の立場をとって使命に忠実に生きようとする存在がそこにあてがわれる、わけではなく、アルトリア・キャスターは自分の運命についてあまり「仕方がない」ものとして捉える人物(正しくは妖精だが)として描かれている。
楽園の妖精の役目は、モルガンほどの才能を持たないアルトリア・キャスターにとって荷が重すぎるものだ。そして、モルガンのように使命に背く意思の強さというものも彼女には存在しなかった。アルトリア・キャスターはモルガンより未熟という程度に収まらず、下位互換とすらも言い難い、はっきり言ってしまえば「弱さ」が際立ったキャラである。この点は、人々の理想の王としてあろうとした汎人類史のアルトペリア・ペンドラゴンの方をモルガンの対として描いているはずなので、意図的なものではあろう。
アルトリア・キャスターは、この二人の王の横には到底並ぶことのできない存在として最初から描かれているように思えた。
アルトリア・キャスターの対としてあった人物というなら、それは主人公である藤丸立花であろう。
使命であるブリテンの救済のために妖精國を滅ぼすというアルトリア・キャスターの姿は、汎人類史を救うために異聞帯を切除していく藤丸立花と重なる。モルガンやAチームという、自分の前任者が遥かに上の才能を持つ人物たちだったところも。優秀な仲間たちに支えられながら旅路を行く姿も。大事な仲間に後を託される役回りなのも。たとえ最後は一人で立つことになっても、災厄に立ち向かった覚悟も。
…というのはさすがに詩的なきらいもあるが、あながち間違ってもいないだろう。
藤丸立花の横にマシュがいたからこそ彼/彼女が戦えたように、アルトリア・キャスターの横を歩いてきたのが藤丸立花だからこそ彼女は己の使命を果たすことはできたのだから。
そう考えると、対というよりは、汎人類氏における藤丸立花とマシュの近しい関係が、アルトリア・キャスターと藤丸立花の間で成されていたようにも思える。
だが、藤丸立花は汎人類史の人間で、アルトリア・キャスターは異聞帯の妖精だ。
ソロモン打倒後に藤丸立花はマシュと共にカルデアの青い空を見つめることは出来た。しかし、アルトリア・キャスターにそれは許されない。 異なる世界に住まう二人である以上、ソロモン神殿脱出の際のマシュのようには救いの手は伸ばせないのだ。
FGOのスチルで後ろ姿なのは第1部最後の藤丸立花とマシュが空を見上げるものと、アルトリア・キャスターのものの二つだけだと記憶しているが、あそこもある種の対比なんじゃないかなぁ、と個人的には考えている。
しかし。
たとえ最後まで共にできなくとも、彼らが大切な友人だったのは違いはなく。モルガンほどの才能やカリスマ性を持たない、なんでもない普通の少女であったアルトリア・キャスターが聖剣の担い手となれたのは藤丸立花、そしてその仲間たちのおかげなはずだ。
–藤丸立花とオベロン–
オベロン「僕たちは似ている。たぶん、このブリテンにおいて同じ役割を持っている。
Fate/Grand Order 妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ
僕らは傍観者だ。残念ながら、僕も君も、この筋書きの主題じゃない。
(中略)
でも、だからといって自分を責める必要はない。
だって最後までには必ず、”君がやらなくちゃいけない場面”がやってくる。
他に誰もいない状況で、君にしか許されない、すべてをひっくり返すような、そんな場面が」
嘘つきであるオベロン。彼は藤丸立花との旅の途中で色々なことを話し掛けてくる。
シナリオ中では藤丸立花のことを「どうでもいい駒の中でも、いちばんどうでもいい駒だった」と思っているがゆえの吐露だと言うが、独り言に近いそれだからこそ本音に近いことも喋っていたと個人的には考えている。藤丸立花のことを脅威と思っていなかったのは確かだろうが、だからこそ彼のことを「僕たちは似ている」と語ったその言葉は彼の数少ない真実だったのではないだろうか。
既に様々な人が述べているが、オベロンは藤丸立花のことこそを彼の伴侶・ティターニアに似た人物と無意識に捉えていた節がある。汎人類史を救うために犠牲となっている藤丸立花に、物語の中で犠牲として役割をあてられるティターニアの姿を重ねて見れなくもない。奈落の穴へと落ちていく捻くれ者の名を最後まで呼んだ彼のことを。
オベロンの目的はブリテンの崩壊だけではなく、ティターニアのために汎人類史を滅ぼそうともしていたことも彼の最後の独白で語られている。オベロン自身は認めないが、藤丸立花をティターニアだと見なしていたのなら彼の立ち回りには色々と考えさせられるところがある。
奈落の穴へと落ち続けるオベロンことオベロン・ヴォーティガンのサーヴァント実装は、個人的にはアヴァロン・ル・フェの完結からしばらく経ってのことだと個人的には推測していた。何かしらのイベントを挟み、汎人類史のオベロンと縁を結び、その結んだ彼に妖精國の彼の影響が出るような筋書きだと思っていた。
実際には、この記事を書いている8月12日18時の更新に妖精王オベロンはサーヴァントとして実装されてしまった。ぼく自身は召喚できなかったものの、TwitterのTLに流れてくる映像を見る限りは妖精國の彼自身であるらしい。もう会わないと思っていたはずなのに、本当に嘘つきなヤツである。
あるいは。
奈落の穴でもティターニアを探し続けていた彼の行きつく先は、カルデア以外にはありえないということなのだろうか。
しかしまぁティターニアが果たして誰を指すのか。人によってだいぶ答えが異なる問いである。
藤丸立花だと言う人もいれば、アルトリア・キャスターだと言う人もいる。そもそもその存在は空想を前提を語られていると言う人もいれば、常に彼の傍にいた献身なブランカだと言う人も最近は少なくない。シナリオ中で明言されていないのがその原因だが、めいめいにそう考えるに至るだけの理由がある。それらを否定するつもりは全くないので、あしからず。