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【感想】映画「クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」~心をエリートにする傑作~

 映画クレヨンしんちゃんシリーズ第29弾『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』を鑑賞した。
 端的に言うと、しんちゃんと風間君の友情に焦点を当てた傑作だ。2021年現在だとなかなか映画館に行ってくれとはいえないご時世だが、まだ見ていない人は必ず見ることをお勧めする。

 脚本を務めるのは、「サボテン大襲撃」 や「カンフーボーイズ」を手掛けたうえのきみこである。しんちゃんの”ボンクラ”さの描写においてはピカイチを誇るその手腕は、今作においても健在。なおかつ、マジメなシーンにギャグ要素をうまくはめ込むという部分においては、これまでの作品で一番うまくいっているのではないかと個人的には思えた。特に終盤のシーンではそれが顕著で、独特の疾走感をもってラストスパートの盛り上がりに一役買っている。 監督である高橋渉とは 「カンフーボーイズ」から2回目のタッグとなるが、この脚本のパワーを見事に出力しきっているのはさすがといったところか。

 以下、ネタバレありの感想である。



しんちゃんと風間君の壮大な友達ゲンカ(ネタバレ)

 今回の物語を一言でまとめるのなら、「壮大な友達ゲンカ」となるだろう。
 しんちゃんと風間君の小競り合い自体はテレビ本編でもよく見られる風物詩だが、ここまでガチンコにぶつけあってのケンカを見せつけられるとは思ってもいなかった。その発端が風間君の想いというのも、なかなかどうして鑑賞者の心を掻き立ててくれる。


 既に鑑賞した人はご存知の通りだが、今回の天カス学園の体験入学を申し込んだのは風間君である。
 優秀な風間君がエリートをモットーとする天カス学園を志すのは自然なことだ、とは思いつつも、風間君が何かしらの理由をもって申し込んだと予想を立てていた人は少なくはないのではないだろうか。しんちゃんたちのエリートポイントを気にする描写からその疑念は積み上がり、物語が中盤に差し掛かろうとするタイミングでその答えは明示されることとなる。
 野原一家の団らんにて、風間君のお受験が話題になったところで彼の想いはグッと映画鑑賞者に伝播していく。


 友達とずっと一緒にいたい。
 純粋なその願いは、風間君だからこそ確かな不安となって感じ取れてしまったのだろう。


 風間君の学力が抜きんでいていることは、クレヨンしんちゃんを見ている人にとって常識である。しんちゃんとのおバカさ加減と風間君の真面目さは、これまでの作品でも描かれてきたことなのだ。いくつもの塾に通い、頭脳派である彼はずっとその立ち位置を維持し続けてきた。
 そんな彼の進学先がしんちゃんたちと同じということは、まずありえない。
 一度離れ離れになってしまった友人たちが再び集うことは難しい。頭の良い風間君なら、自然とそう思い至る。
 そして、しんちゃんが風間君と同じ未来を思い描けないのも、また自然なことであろう。


 天カス学園の事件をもって、彼らの考え方の違いは壮大な友達ゲンカへと発展していく。



おバカだけど、心がエリートな友達

 実際問題、進学先が違ってしまったら交友関係はそこで一旦リセットされてしまう。
 どんなに仲良かろうと過ごす時間は減ってしまうし、本編中でも言っていた気はするが、新しい友達グループができることでそれまでのグループと関わらなくなってしまうことも珍しいことではない。これには仲の良さとは全く違う話で、どうしようもないことだ。
 どうしても友達と一緒にいたいと願うのならば、進学先を同じにしてしまえばよいという、風間君が取った行動をやる以外に離縁を回避する方法はないだろう。


 そんな風間君は天カス学園での事件に巻き込まれた結果、偶然にも自信の悩みを完璧に解決してしまう方法を得てしまう。
 人間を分け隔てなく「エリート」にしてしまう装置さえあれば、進学先だけではなくもっとその先まで一緒にいられる可能性は上がる。風間君にとって自分の望みをベストな形で叶えてくれる手段を手に入れたのだ。


 そんな風間君を間違っているとして助け出そうとする、かすかべ防衛隊。
 『スーパーエリート風間さん』の前に挫けかけた彼らが、風間君が天カス学園に送った友人のことを綴った推薦文のことを知って立ち上がるシーンは、王道ながら素晴らしいシーンとして仕上がっていたと思う。


 心がエリートの件は無理矢理ひねり出した感があって最初は苦笑していたのだが、レース終盤のラストスパート時にもなると、そう言い表した風間くんの評価の正しさには納得させられてしまった。子供らしい言い合いの中に、しんちゃんの真っ直ぐな想いがのっているあの場面は、確かに心がエリートだからこそ伝えられるものなのだと感じた。

 個人的に評価が高かったのは、レースが終わったあとにしんちゃんが最初に謝ったところ。
 仲違いのきっかけとなったシーンは明らかにしんちゃんが悪いなー、と思っていたのでちゃんと誤ったのは素直に偉いぞしんちゃん!となった。



 というわけで、しんちゃんと風間君の友情にフォーカスが当たった本作だが、もちろん他にも見どころはたくさんあった。たとえばゲストキャラについてだ。人数が多い都合で一人一人の出番は多くないものの、かすかべ防衛隊の面々と繋がりがあるおかげで終盤にそれぞれ見せ場を用意してあるのは純粋に構成力の良さを感じた。特に番町の件は不良グループとしての絡みを見せつつ、最後にインパクトの強いアレをポンと出してくるのはうまいペース配分だなぁと感じた。全体的に構成の良さ、というか伏線の立て方はうまいのである。
 推理パートについても、子供が分かりやすいようにだいぶ分かりやすい方向に調整はされていたが、なかなか良いフックとして機能していたのには驚いた。まぁ、さすがに本当の犯行現場から時計塔への移動ギミックは無理あるだろと思ったけど。濡れている理由なんて思いつかないぞ!


 個人的な総評としては、しんちゃん映画シリーズのトップ5には入る出来であるようには感じた。人によってはベスト3に入れてもおかしくないくらいの完成度だとは思う。
  うえのきみこと 高橋渉のタッグでまた面白い作品を作ってくれることを切に願う。

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